【河川基金からのお知らせ】

「みどり川と遊ぼう」プロジェクト

中標津町立丸山小学校
校長 横山裕充さん  教頭 中川律子さん

 

 北海道東部に位置し、町の中心市街地には二級河川の標津川が流れ、自然豊かな環境にある中標津町立丸山小学校では、フィールド活動を学びの場に取り入れ、体験を通して子どもたちそれぞれの追究する力の育成に力を入れています。そうした教育を中心となって推進している横山裕充校長先生と、中川律子教頭先生に、お話を伺いました。

河川教育の重要性とその魅力

 残念ながら今の子どもたちは、原体験が少なくなっています。30年前に小学校低学年に生活科が新設されたとき、子どもたちが学校から帰って遊ぶ時間や場所がなくなってきたということが話題になりました。当初は東京や首都圏での状況だと思っていましたが、10年もしないうちに、北海道のこんな東の果ての田舎でも同様の現象が起きてきました。本来なら、幼少期の体験が「学びの履歴」となって、学校で学習したときに、それらの体験と結びついて探究心が芽生え、興味が深まると思うのですが、彼らにはそうした体験がないわけです。だったら学校で、そういう機会を与えてあげればいいと思ったのです。
 子どもの学びには自然体験が不可欠です。水は生命の源という点で、川は非常に大事な役割をしていると考えているので、学校付近のフィールドに川が流れていたら間違いなくそれを教材にします。赴任先が決まったら、まず学校近くのフィールドにそういう環境があるかどうかを調べます。
 中標津町は、アイヌ語で大きな川を意味する「シ・ベツ」が由来となっているように、二級河川の標津川が市街中心を流れていますが、大きすぎて子どもたちが活動できるフィールドではありません。しかし、標津川に流れ込む支川がたくさんあり、丸山小学校の近くにもみどり川という小さな支川がありましたので、そこを学習活動に使っています。以前の赴任先では別の支川を教材にしていました。大事なのは川の個性ではなく、そこから子どもたち自身が何を得るかです。
 川は学習教材としての内容の豊富さが魅力なんです。自然や生物について学べる一方で、防災教育にもなりますし、地域の歴史や物理的なエネルギーという観点からも学習できます。いかようにも幅を広げられるので、すごい教材です。
 子どもたちは、教科で学習したことと結びつけて視点が変わります。たとえば、理科で川の流れを学習すると、それまでは全く目がいかなかった川の流れに関心をもって見るようになるので、教科と関連づけた学習計画を立てることができます。彼らの興味をどれだけ広げられるかは、先生の引き出しの多さにもかかわってきますが、先生がわからないことは専門家に教えていただけばいいわけです。たとえば、みどり川付近の地層について調べるときには、北海道教育大学の境先生にご指導をいただきましたし、みどり川の水生生物については、さけます・内面水産試験場道東センターの職員の方にお話を伺うことができました。
 川は黙っていてもいい教材です。ぼーっと見ていてもいいし、遊んでいてもいい、何かをしなければならないということではなく、そこにあるものが何かをさせるのだと思います。

 

河川以外のフィールド活動

 河川以外にも、校内には農園がありますし、標津川の三日月湖で市民の憩いの場となっている丸山公園やその周辺の市街地や商店街、公的な施設などもフィールド活動に利用しています。横山校長先生が赴任されてからは、とにかくよく外へ出るようになりました(笑)。
 「総合的な学習の時間」のほか、理科や社会はもちろん、どの教科でもフィールド活動が可能です。たとえば、かけ算を習ったら、市街地へ出てビルの窓の数をかけ算で計算するとか、活動したことを作文にすることもできます。町で花の手入れをしている方を見かけたら、どうやって手入れするのかとか、学校の畑の手入れの仕方を教え
てほしいとか、子どもたちが自分たちで考えて積極的に提案したり、行動するようになりました。
 活動後に学校へ戻ると、早速お世話になった方に手紙を書こうとか、川で見た生き物の絵を描きたいとか、みんな生き生きとしています。学習意欲にもつながって、成績も良くなっていくんです。そんな風にどんどん変わっていく子どもたちを目の当たりにして、最初は横山先生の教育方針に懐疑的だった先生方も変わりましたね。

「子ども主体」の教育

 いちばん肝心なことは「子ども主体」の教育だということです。決して放任するわけではありません。ですから、毎年4月、学年ごとに先生方全員で、年間プログラムをしっかり立てます。各教科と体験がどのように関連づいて、最終的に子どもたちに何を身につけさせたいのかという目標を設定します。決してこちら側がどこへ行くとかを決めるわけではありません。あくまで考えるのは子どもたち。ただ予想はできるので、このぐらいの行動範囲に収まるだろうという想定をして、目標達成に向けて、子どもたちが進んで行くのを見届けるという授業スタイルです。机上だけの学習ではなかなか身につかないことも、体験を伴うことで簡単に記憶することができます。
 ただ、概念として忘れてならないのは、体験して得るものは人それぞれで違うということです。育ってきた環境や学びの履歴の違いから、それぞれが得るものは変わるけれども、最大公約数的にとらえることで授業を続けるこ
とができます。
 子どもたちの提案を生かすためには、そこにどんな教材性があるのかを先生がつかんでおくことが重要なポイントです。興味の幅が広がって予想外の提案をしてきたとしても、大きく教育活動から外れるということはありません。
 たとえば、社会科で暖かい地方について学習したら、元丸山小学校の教諭で沖縄の小学校で教えている先生がいるから、沖縄の小学校とオンラインで結んでみようとか。俳句を習ったら、ちょうどそのとき俳句を募集してい
る民間企業があったので、みんなでつくって応募しようとか。俳句については、採用されなかったのが悔しかったのか、再挑戦も行いました。今度は町内の専門家を探して教えてもらって惜しいところまでいきました。
 これらは全て子どもたちの提案です。これまで子どもたちが提案してきたことで、できなかったことはありません。もし、そのときすぐにできなかったとしても、年間プログラムを見て、この学習をするときにやろうとか、時期を変えればできるということを先生が提案すればいいだけなんです。
 こうした教育方針を掲げている学校は少ないと思いますが、子どもたちがしっかりと自立して考え行動できるように成長しているのを見て、大変嬉しく思っています。
 今後も先生たちと一緒に「子ども主体」の教育を実践していきたいと考えています。

今後取り組みたい研究やテーマ

 自然体験を取り入れた「子ども主体」の教育を広めていければいいなと思っています。しかし、これは思うより
難しいことなんです。フィールド活動すること自体はできても、「子ども主体」という教育を先生方が分かっていないと意味がありません。先生方の意識が変わらないと、子どもたちに身につけさせることはできないんです。
 実は丸山小学校の学習方法をまねしたいという学校もいくつかあって、どういう風にやっているのか、どういう計画なのかとよく聞かれるのですが、当校と同じ計画通りにやっても、日常的に「子ども主体」の授業に変えていかない限り難しいと思います。「子ども主体」の教育は1年生から始まっています。1、2 年生では外で楽しく遊ぶだけでもいいのです。3、4 年生になると何かを見つけたり、追究したいものが必ず出てきます。5 年生になると教科で習ったことと関連して新たに追究したいものが出てきて、6年生は、さらに追究の幅を広げていくというように、子どもたち自身が追究したいものを選んで進んでいくのですが、これは何度かフィールド活動しただけで身につくわけではないんです。先生方にも理解してもらえるよう指導していますが、転勤などで学校が変わると教育方針も違うので、続けるのは難しいと思います。それでも、できるだけ広める努力はしていきたいと思っています。

 

中標津町立丸山小学校

校長
横山 裕充 さん

教頭
中川 律子 さん

学校近くのフィールドを最大限に活用して、子どもたちが体験を通して学びを深め、自然豊かな中標津町を誇りに思えるような教育を学校全体で取り組んでいる。

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