【河川基金からのお知らせ】

河川財団理事長奨励賞受賞研究-川の生き物の食べ物はどこから来るのか?-

2016/04/21 事例紹介

スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)博士研究員〔日本学術振興会海外特別研究員〕 石川 尚人 さん


 
生物試料を燃やした後、二酸化炭素ガスだけにするためのガラスライン。さらに二酸化炭素をグラファイトに変え、放射性炭素分析を行う。
 
 平成26年度河川基金助成事業による研究成果表彰の「理事長奨励賞」を受賞した国立研究開発法人 海洋研究開発機構のJSPS特別研究員PD石川尚人さん(現在:スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)博士研究員〔日本学術振興会海外特別研究員〕)に、受賞対象となった研究(放射性炭素14 を中心としたマルチアイソトープによる河川食物網の生産基盤の解明)の概要、河川基金に対する期待、同じ若手研究者へのメッセージなどをお聞きしました。
 研究成果表彰は、河川基金による助成事業で実施した調査・研究の成果をさらに発展・成熟させ、学会等に論文として発表することにより社会的に評価された研究実績をあげるなど、防災・減災の取組みや河川環境の改善・保全等に関して卓越した功績を上げた助成研究者を表彰するものです。
 

生態系を高精度に解析する研究


 河川基金の助成は、これまで何度か活用させていただきましたが、河川基金での研究成果を発展させ、助成終了後何年か経ってようやく論文として発表することができたので、ちょうどよい機会だと思い応募させていただきました。
 助成当時は、京都大学生態学研究センターに所属し、川に棲む生き物の同位体比(同位体とは、陽子の数は同じだが、中性子の数が異なる元素のこと)を測ることで、生態系の中の物質やエネルギーの流れを明らかにする研究を行っていました。現在はこれをさらに発展させ、生き物の体に含まれるいろいろな化合物(アミノ酸やクロロフィルなど)ごとに同位体比を測り、生態系をより高精度に解析する研究を行っています。現在所属する海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、海と地球の研究所です。ここでは自由闊達な雰囲気のもと、たいへん優秀な人材が数多く集まり、地球深部探査船「ちきゅう」や潜水調査船「しんかい6500」などを駆使した、世界最先端かつ独創的な研究開発活動が展開されています。
 

河川生態学の重要な新知見


 我々人間を含む動物の多くは、食べ物がなければ生きてゆけません。その食べ物は、光合成によってCO2から作り出された有機物がほとんどです。受賞対象となった研究では、川に棲む生き物(魚や虫など)の放射性炭素天然存在比(Δ14C)を測りました。そして、川に棲む生き物の食べ物(炭素)が、どこからやって来て、どれくらい川の中にとどまっているのか、を明らかにしました。14Cは安定同位体である13Cと異なり、宇宙線存在下の成層圏でつくられ、半減期5730年でβ壊変してなくなっていきます。このため、大気中のCO2と、河川水中に溶け込んでいるCO2とでは、Δ14Cが異なります。このことを利用すれば、川に棲む生き物の食べ物が、大気CO2から来ているのか、それとも別のところから来ているのかが分かるはずです。生物のΔ14Cは、大気中のCO2のそれよりもはるかに低く、彼らの食べ物の多くが、大気CO2とは別のところに由来することを、世界で初めて明らかにしました。大気CO2濃度の増加が、気候や生態系に影響を及ぼすと言われていますが、川の生き物にとっては、その影響は直接的ではない可能性が示されました。一連の成果は、河川生態学の重要な新知見として、Ecology誌などに掲載されました。
 

研究を展開させるために


 河川を対象とする研究助成金はあまりないため、たいへんありがたく思っています。また、最近は若手研究者専用の応募枠も作っていただき、私のようなポスドクや大学院生などにも、獲得のチャンスが大きく広がったと感じています。経費も比較的自由に使わせていただけるので、思い通りに研究を展開させることが可能です。
 サイエンスの発展とともに専門分野がますます細分化され、きわめて重要な研究成果を出しているにも関わらず、一般社会からその価値を分かってもらえない研究者がたくさんいます。そういった研究にも光を当てられるような助成制度を、ぜひ目指していただければと思います。
 

研究成果のこまめな整理


 河川基金では、若手のための採択枠も用意してくださっているので、ぜひ応募をお勧めします。応募書類を書いたり計画を考えたりすることで、自分の研究を見つめ直すきっかけにもなります。採択されれば自信もつくと思いますので、皆さん積極的に応募してください。
 応募のために準備する書類が少ない点は、初めての人にとってはとてもありがたいのではないかと思います。特に、他の助成金や奨学金などへの応募経験の少ない大学院生には、腕試しの場としても最適です。報告書の文量はやや多いですが、研究成果を論文化する過程で、早めに結果をまとめて頭を整理するよい機会になります。
 

今後の抱負


 今回、河川財団理事長奨励賞を受賞して、大変光栄であると同時に、身が引き締まりました。なぜなら私のような基礎研究者が、河川財団の理念にある「河川環境の整備、保全」さらには「国民生活の向上」に対し、果たしてどれだけ貢献できるか、と考えたからです。しかし、このような理念の追求には、基礎的な知見の積み上げが必要不可欠なことは言うまでもありません。出口志向の応用的な研究ももちろん重要ですが、今後もこのような観点から、基礎研究に対する継続的な支援をいただければ幸いです。
 最後に、河川財団の皆様、顧問の先生方に、心より感謝いたします。表彰いただいた研究成果は、大学院の恩師である陀安一郎先生、共同研究者の加藤義和さん、冨樫博幸さんと一緒に作り上げたものであり、この場をお借りして深く御礼申し上げます。本表彰を励みにして、河川に関わる学問の発展に貢献する研究を続けていきたいと思います。私は4月から研究活動の拠点を海外へ移しますが、河川を対象とした研究は続けていきますので、河川基金には機を見てまた応募させていただきます。今後ともよろしくお願いいたします。(平成28年2月取材)



 
石川 尚人 Naoto ISHIKAWA (写真左)

スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)博士研究員〔日本学術振興会海外特別研究員〕
1983 年宮城県生まれ。2006 年東北大学理学部生物学科卒業。2011 年3 月京都大学大学院理学研究科博士課程修了。博士
(理学)。2011 年京都大学生態学研究センター研究員。2013年海洋研究開発機構日本学術振興会特別研究員(PD)。2016年4 月より現職。
2012 年笹川科学研究奨励賞。2015 年日本陸水学会最優秀口頭発表賞。主な著書に「現代の生態学第9 巻 淡水生態学のフロンティア」(共著 共立出版、2012)、「生態学フィールド調査法シリーズ第6 巻 安定同位体を用いた餌資源・食物網調査法」(共著 共立出版、2016)