【河川基金からのお知らせ】

河川教育による子供たちの変容

2016/09/23 事例紹介

多摩市立連光寺小学校(東京都) 教諭 松田 一枝さん  教育連携コーディネーター 羽澄 ゆり子さん

河川教育の取り組みを始めたきっかけ


(松田)河川教育には、本校では平成12年度から4年生の総合的な学習の時間で取り組んできました。4年社会科の「水のゆくえ」という単元では、自分たちの飲む水はどのようにしてとどけられるのか学習しますが、この内容が多摩川についての学習につながり、発展していきました。多くの学びを与えてくれる川はたいへん魅力のある学習材です。子供たちも生き生きと学び成長していくことができ、この学習活動の価値を感じています。

(羽澄)私は平成14年から、多摩市の教育活動指導職員として、この学習に関わりはじめました。もともと野生動物調査が専門で、水辺や河川環境関係の専門家との人脈もあり、いろいろな方を巻き込んで授業をやってみたら、ますますおもしろい形になり、現在にいたっています。
 

河川教育の取り組み内容(クロスカリキュラム、単一学年から複数学年への広がり)


(松田)現在は「川は自然の宝箱」と題して総合的な学習の時間を中心に取り組んでいますが、社会科や理科の単元とも関連づけています。また自分が調べたことを書いたり、表現したりというのは、基礎的な国語力の充実にも繋がっており、クロスカリキュラム的に実施しています。また、今までは4年生単独の活動でしたが、昨年度から5年生とのつながりも考えて取り組んでいます。5年生では、「連光寺SATOYAMAプロジェクト」と題した学習を展開していますが、4年生の多摩川の学習をもとに水源林としての地域の森林(里山)に着目し、5年生の学習をスタートさせています

(羽澄)4年生の川の学習の内容は、まず1学期はガサガサや野鳥観察、Eボート体験など川での共通体験活動を行い、川と出合います。初めて多摩川の水に入った時は、「汚い」とか「ぬるぬるしているから嫌だ」という子供がいたりするのですが、何回かの体験活動の中で多摩川には魚や植物、野鳥や昆虫が種類も数も多くいることや、中には絶滅危惧種や外来種もいたりすることを知って、いろいろな興味や疑問がわいてきます。2学期には、その興味や疑問の中から各自課題を決めて実際に川で調査をしたり、本やインターネットで調べる探究活動を行い、その成果をまとめて作品を作り、発表します。

(松田)以前は、学習を通して多摩川の自然の豊かさや価値を実感して終わっていましたが、最近は、これからの多摩川のために自分たちはどのようにかかわっていけばよいのかを考えるような取り組みがされています。昨年は2学期のまとめの発表で、現在の多摩川の自然の豊かさや価値について考えました。そして3学期には、40年前の多摩川が死の川と呼ばれている時代の映像を見て、多摩川の過去を学びました。そのうえで、40年後自分たちが大人になった時にはどうなってほしいか考え、そのために何ができるのか話し合う「多摩川未来会議」を開催しました。会議に向けて、魚が棲みやすい川とはどんなものかを調べたり、多摩川で現在ボランティア活動をしている人たちの取り組みを調べたりして、自分の考えをまとめ、「多摩川未来会議」では、それぞれの考えを伝え合いながら、自分たちにできることを決めました。多摩川を汚さないためのポスターをつくることやごみ拾いなどの清掃活動をすることが提案され実行しました。おもしろいのは、自分たちで体験して調べて議論すると、ポスターも単に「ポイ捨てやめよう」とかではなく、多摩川にはこんな絶滅危惧種がいるから汚さないでほしいという訴えがあったりして、一味違うものになります。また、こうやって決めたごみ拾いに、子供たちは実に楽しそうに生き生きと取り組みます。地域のボランティア活動に参加しようとする子供も現れ、私たちも驚きました。

(羽澄)子供たちが連光寺小学校に入学してから卒業するまでの間に、発達段階に応じた地域での活動を何回も何回も繰り返して経験させていきます。そして、地域の自然やそこで活動する人たちとの発見や出会いが積み重なり、子供たちの原風景として多摩川が心に刻まれてくれるといいなと思っています。
 

河川教育による子供たちの変容


(松田)子供たちから出てくる言葉が具体的で豊富になります。一番わかりやすい事例は、ウエッビングマップです。子供が川から連想することを川の学習をする前に書いたものは、数も少なく、内容も単に机上の勉強で得た知識を書き出していたのが、自分が調べたことや経験したことをたくさん挙げるように変わっていきます。カワラサイコ、オイカワなど普通の大人も知らないような川にいる動植物の名前が当たり前のように出てきます。

(羽澄)やはり、ウエッビングマップの変化は大きいですね。言葉の数が増えて、具体的になります。水が冷たい、ぬるい、濁っている、流れが速い、遅い等々、現場に行った子供にしか書けない内容がたくさん見られるようになります。これは、それまで漠然と川を眺めていたものが、自分自身の目でみて、触って体験をしたことで見えるものが変化したことの表れだと思います。
 また、語彙の数が増えるだけでなく、それぞれの項目につながりがあることが見えてくる子供も出てきます。たとえば「カワセミ」と「魚」を線で結ぶようになります。餌となる魚がいないとカワセミはここにはいられないからです。川底の石の下に隠れる魚や水生昆虫も石と線で結ばれます。自然の中での生き物どうしのつながりに気付くのです。こうして1年後のウエッビングマップはたくさんの線で結ばれ文字通り網の目になっていきます。
 

外部の専門家との連携


(羽澄)子供たちの様々な興味や関心に対応するには、学校の教員だけでは難しい面があります。最近は教員自身の自然体験活動の経験が少ないことも多いです。そこで、本校では外部の専門家の方たちと連携して対応しています。水辺の楽校のスタッフや、大学の研究者、地域の野鳥愛好家、行政の担当者、地域の博物館の学芸員、企業の河川・水環境の専門家の方など、様々な川の達人にご協力を頂いています。
 ただ、外部の専門家の方は、必ずしも学校教育や子供について良く分かっているわけではありません。話がむずかしかったり、しゃべりすぎてしまったりします。また、逆に地域の方や専門家が伝えたい想いが授業の枠組みの中では伝えられないこともあります。そこで私のほうで、双方の想いが子供たちに伝えられるように専門家と学校のコーディネートを行い、プログラムをよりよいものにしていきます。
 

先生の異動への対応


(羽澄)公立の学校の場合には先生の異動があります。本校で河川教育の経験を積まれた先生が異動するとたしかに校内での継続性が課題になります。そこのところは地域の支援者や私がコーディネーターとして動いて、授業を継続できるようサポートしています。一方で本校から異動した先生から異動先の学校でも河川教育の活動をやりたいという相談があったり、異動先の学校で連光寺小学校の川での活動を紹介してくれたりするなど、先生方が異動することで、今度は新しい場所に種をまいて下さるというメリットもあり、必ずしも異動は悪いことではないと感じています。
 

河川教育に取り組む学校へのアドバイスや提案


(羽澄)まずは先生自身が面白いと思うことが一番のポイントではないでしょうか。川にはいろいろな切り口のテーマがあり、自分なりの関心事や手法が見つかると本当に楽しくなってくると思います。

(松田)教員の意欲は、子供たちの生き生きとした姿に引き出されます。子供たちが楽しそうに学び、力を伸ばしていくことは、大きな喜びでもあります。川の学習では、子供たちの変容が大きく、皆が生き生きと活動している姿にたくさん出会うことができます。子供たちがワークシートに川の活動の振り返りを書く時、文章を書くのが苦手な子たちでも、発見したことや疑問に思ったことをたくさん書いてくれます。是非、先生自身も楽しみながら、河川教育に取り組んでみてはいかがでしょうか。



 
多摩市立連光寺小学校における取り組み

平成12年度より4年生の総合的な学習の時間を中心に、身近な学習素材である多摩川を活用した河川教育を展開。体験活動から多摩川を体感するとともに、各生徒が課題を設定し探求する学習を実践。平成27年度からは、5年生でも河川教育の取り組みをスタート。

自分たちが大人になった時に多摩川がどのような姿であって欲しいかを考え、何ができるのか話し合う「多摩川未来会議」を開催するなど、体験活動や探究活動を通し自然との共生について自ら考え行動できるようになることを目指しています。

(写真左)松田 一枝 Kazue MATSUDA

多摩市立連光寺小学校 教諭  2004年より連光寺小学校に勤務し、地域の特色を生かした学習活動の研究に関わってきた。昨年度は4年生の担任となり、多摩川の自然を生かした学習活動をESDの視点から行った。本年度は5年生の担任となり、多摩川と森林の学習をつなげる試みを行っている。

(写真右)羽澄 ゆり子 Yuriko HAZUMI

多摩市立連光寺小学校 教育連携コーディネーター  大学修了後(株)野生動物保護管理事務所研究員勤務をへて、2002年より連光寺小学校に教育活動指導職員として勤務し学習支援に携わってきた。現在は教育連携コーディネーターとして河川、森林環境教育の支援を行っている。理科講師兼務。専門分野は野生動物保護管理、環境教育、野外体験活動。