【河川基金からのお知らせ】

川のアクティブラーニング
~ESD(持続可能な開発のための教育)で取り組む「川の学び方」~

e-plus生涯学習研究所
代表 小林 由紀子 さん

 知識と体験を組み合わせた水環境学習のプログラムを作成、実施することで、子どもたちの主体的な学びを促す活動を続ける「e-plus 生涯学習研究所」。代表を務める小林由紀子さんに、水環境教育に携わるようになった経緯や、子どもたちが川での体験をしながら学ぶことの大切さについて、お話を伺いました。

いつでも、誰でもが学べる機会を作りたい

 私たちが理念として「生涯学習」を掲げているのは、私自身、環境に興味を持ったのが40歳過ぎとすごく遅かったからです。PTAで環境担当の役員になった時に、地球環境問題の詳細を知り、すごく驚いたのです。その驚きのプロセスを誰かと共有して学ぶ場があれば、少しでも地球を救う助けになるのかもしれないと思いました。だからこそ、「どんな年齢の人でも、いつでも」学べる場を目指したいと考えています。
 PTAでの経験で知った中で、3R(リデュース、リユース、リサイクル)のように生活の中で意識せずにしている実践が地球温暖化防止に寄与する一方、危機を感じたのは生活排水が知らないうちに川や海の汚れに直結してしまうということです。そこで主婦仲間で環境についての勉強会をするようになりました。やがて子どもも入れて川や駅の清掃をするようになると地域の方からフリーマーケットなどで声をかけてもらうことが増えていく中で、ボランティアで環境授業をやってほしいという依頼も来るように。活動が本格化していったので、カウンセラー仲間と〝環境教育のNPOを作ろう〟という流れに。設立当初は、ヒマな時に活動できればいいかなぐらいの気持ちだったのですが、県や自治体から「あれやって、これやって」という多くの依頼がきたので、〝NPOって設立するとこんなに仕事が来るの?〟と驚きました。実はこの時、少しだけ代表になったことを後悔しました(笑)。

授業プログラムは打ち合わせが8割

 環境教育において、いかに相手に伝わる言葉を使うかがとても大事だと思っています。専門家は、どうしても「正しく伝える」ということを重視します。もちろん正しさは大事ですが、子どもたちにとっては、方向性さえ合っていれば「いい加減」の方がいいこともあります。私たちは現在、小学校4、5年生や中学1年生を中心に授業プログラム作成していますが、学校と関わる中で、分かりやすく話をすることの大切さを強く実感しました。そのためe-plusでは打ち合わせを重視しています。メンバー同士で〝言葉が悪い〟とか〝この量を時間内に教えるのは無理だよ〟とか文句を言うことも。遠慮しながらよりも、遠慮しない方が明らかにいい授業が出来上がります。どんなに能力の高い先生でも、打ち合わせをしないと的を外してしまうことはやはりあります。メンバー同士で反省会をして〝何年生に向けてどんな内容だったら受け入れられるのか〟〝何学期だったら大丈夫か〟〝理科と社会のリテラシーは?〟などなど、かなり細かく話し合っていたように思います。
 学校の先生の信頼を得るためにも打ち合わせは必須です。打ち合わせが仕事の8割といってもいいぐらい。どれぐらい時間がかかって、子どもたちが何を得られるようにするのかを理解していただき、お話をした内容はきちんと守る。だからやりたいことが伝わるまでは大変ですが、顔見知りの先生が増えた現在では、だいぶ楽になりました。

思い通りのプログラムに出合えた!

 水環境学習に取り組むようになったのは、生活排水の授業をよく頼まれるようになったからです。岐阜県は水棲生物調査の多いところだったので、調査体験の授業は多いです。でも知識を得る授業が少ないということで、最初はプログラムを作ってお渡ししていたのですが、〝こんなふうにしてみたらどうですか〟と実践してみると、結局そのままやることになることもありました。その中で「プロジェクトWET」(※)と初めて出合った時、〝まあなんと私が望んでいたプログラムでしょう!〟と感激しました(笑)。この経験を通して、より水環境の分野にはまっていきましたね。「驚異の旅」などのアクティビティを通して地球全体の水循環が分かると、生活排水のどの部分に自分が関わっているかが子どもたちにもビシッと分かるんです。空気がきれいじゃないと雨もきれいじゃないよね、という因果関係を理解してもらえるなど、本当にすごいと思います。調査体験と「驚異の旅」を組み合わせてみたら、毎年先生方に受け継がれるようになって、最初は2校ぐらいの依頼だったのが今は20校ぐらいになっていますね。


プロジェクトWETを代表するアクティビティ「驚異の旅」


人の体にはどれぐらい水が含まれているかを学ぶ「アクアボディクイズ」


※プロジェクトWET…世界66以上の国と地域で活用されている体験型水教育プログラム。米国内で300人以上の資源管理者・科学者等により開発され、 600人以上の教師と34,000人の生徒たちによってテストされた、「水」に関するたくさんのアクティビティが盛り込まれている。「驚異の旅」とは、自身が水の粒子となって、すごろくのように地球上のいろいろな場所を、かたちを変えて移動して水の循環を理解するアクティビティ。

自分の住む地域を知り好きになってほしい

 河川の環境授業をする際の目標は「子どもに自分の地域を知って、好きになってほしい。誇りに思ってほしい」ということ。授業を始めた頃に感じたのが、川のことも、生き物のことも知らない子がとても多いということでした。自分の地域を誇れない子どもが、地球環境を語れるわけはないと思ったんです。この授業や体験を通して、地球環境を段階的に考え、「守る」ことの大事さに気が付いてくれればうれしいですね。私たちはそのきっかけづくりしかできませんが、私たちの世代ができなかった「地球環境を良くする」という行いを、今の子どもたちはきっと、自然に身につけることができると感じています。
 でも、実は河川学習は、私が楽しくてやっていることなのです。楽しめば楽しむほど、子どもにも不思議と伝わるようです。だから楽しむことを優先に、これからもしっかりと伝わる授業を続けていきたいです。

今後取り組みたい研究やテーマ

 今後考えていきたいことは2つあります。1つは「防災教育」をどうするのかという提案です。今は水環境教育でも気候変動の話に付随して、ゲリラ豪雨の話までは触れていますが、「水は怖いものでもあって、川が氾濫した際には自分で自分の身を守らなければいけない」という意識についてまでは伝えられていません。環境教育ですることではないという意見もあるかもしれませんが、雨が降ったらなぜ川に近づいてはいけないのかという因果関係など、メカニズムを解説し、理解を促すことは必要だと思います。岐阜県はとても川が多い地域ですし、降雨量を考えると防災の話は非常に大切なのに、いちばん大事なところが抜けていると感じています。ハザードマップや警報など、防災情報をどう活用するのか、ロードマップはどうなっているのか。ハード面ではなく、そういったソフト面での教育は、もっと行っていかなければと思っています。
 そしてもうひとつは人材育成。私たちはe-plus のメンバーはリタイアしたり、ほかの組織で役職を持っていたりする人が多いので、若い世代で環境教育に携わる人をもっと増やしていきたいと思っています。熱意も興味もある人は多いのですが、どうしても進学、就職を経て、活動を続けられる人は減っていってしまいます。実際にWETを活用した授業を体験すると「やってみたい」と言ってくれる方も多いので、今後はより一層、授業の魅力を伝え、知っていってほしいと思っています。

小林 由紀子 さん

e-plus生涯学習研究所
代表


1977年 東京女子大学文理学部社会学科卒業
2002年 (財)省エネルギーセンター東海北陸地区省エネルギーモデル校専門員
2012年 国立大学法人岐阜大学未来型太陽光発電システム研究センター特定研究補佐員
2014年 国立大学法人岐阜大学 地域協学センター特任准教授
2016年 岐阜県環境教育推進員

PTAの環境の担当の役員になったことから環境教育に興味を持ち、地域で環境をテーマにエコクラブ活動を10年間続ける。その後、環境カウンセラーとしてe-plus生涯学習研究所を立ち上げ、子どもたちに自然体験活動を含めた環境学習プログラムを提供している。

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