【河川基金からのお知らせ】

未来のために学んでつくろう!子どもたちのふるさとの自然

2021/05/10 事例紹介

認定特定非営利活動法人カラカネイトトンボを守る会 あいあい自然ネットワーク
理事長 綿路 昌史さん


1.あいの里公園内「トンネウス沼」の大掃除を終えて。泥だらけでもみんな笑顔に。
2.茨戸川での水生生物調査を行う「とんぼの学校」。
3.たくさんの人が参加してくれた、石狩川に通じる水路での魚とり。



 

 新興住宅地として知られる北海道札幌市北区あいの里地区には、札幌市唯一の湿原・篠路福移湿原があります。準絶滅危惧種であるカラカネイトトンボをはじめ、約400種の生物が生息する貴重なこの地域の保護・保全活動を中心に、1990年から活動する「認定特定非営利活動法人カラカネイトトンボを守る会 あいあい自然ネットワーク」代表の綿路昌史さんに、これまでの歩みと将来の展望を伺いました。

 

カラカネイトトンボに想いをのせて

 私たちの活動の中心となっている「あいの里地区」ですが、私は1990年にこの地の札幌拓北高等学校という新設校に赴任してきました。学校のすぐ前に「あいのさと公園」があって、そこにあるトンネウス沼が理科の実験室からよく見えていました。観察しているとすごくたくさんのトンボが飛んでいたり、水鳥がきていたり、とても素敵な環境であることに気づきました。この水辺の自然を守りたいと感じ、生徒ともに研究活動を始めたのが会の発足のひとつのきっかけです。
 この研究によって地元の自然の素晴らしさを地域の人にもっと知ってもらいたいと思い、学校祭で展示したり、地域の方々に公開講座をしたり、学校の外の方々にも知ってもらおうとするうち、地元の自然の美しさに気づいてくれる人が少しずつ現れるようになりました。このあたりは新興住宅地で、1980年以降は小さな子どもを持つ若い家族が多く移り住んできました。〝この子にとってはここが故郷になるんだな〟と感じた親御さんが、故郷の自然を残していきたいという想いを持つようになっていったのだと思います。研究の理念に共感してくださったお母さん方2名と私とで、自然を残していく会を作ろうとなったのが、設立の経緯です。
 名前を「カラカネイトトンボを守る会」としたのは、このトンボが北海道でもあまり見ない希少種であり、この地域の象徴種であるということが大きな理由です。このような種が生きていける貴重な自然を残していこうという意味がひとつ。またこのトンボの学名は「Nehalennia speciosa」というのですが、これが「優美な女神」という意味なんです。地域の自然を守ってくれる女神様だという想いも込めて、この名前で活動するようになりました。ただ「トンボだけを守る会」だと思われると参加する人を限定してしまうのではという意見もあって、その後「あいの里」の自然と人を「愛する」ということで「あいあい自然ネットワーク」と付け足したので、非常に長い名前になってしまいました(笑)。

 

自然の美しさに気づいてもらう活動を

 現在、会に参加してくれているのは、正会員、非会員含めてだいたいのべ600名ほどです。幼稚園児から後期高齢者まで、かなり幅広い年齢の方々が参加してくれています。茨戸川の河川敷やあいの里公園内のトンネウス沼での自然環境整備や、石狩川が育んだ篠路福移湿原の保全• 保護を目的とした湿原植物の移植や、ビオ卜—プの整備、余市川などでのカヌー体験や生き物探し、自然体験活動です。こういった活動を通して、生物多様性を学んでもらうことを目的として自然に触れることを通して、正しく知ってほ しいんです。例えば、自分のところで死んだらかわいそうだから、外来種のアメリカザリガニを川に逃がしてしまう。これが生物多様性だと思ってしまう人がいますが、少しでも学んでいればこれはやってはいけないことだということが分かりますよね。後世に自然を残していくためには、やはりひとりひとりが自然のことを正しく理解しなければいけないと思います。
 また、湿原はそのまま保全していくべきだけれど、雨水を調整する沼などは、土砂が溜まり、草がぼうぼうに生えてしまうのでどうしても人が手をかけないといけない。里山に人の手が入らないとダメなのと同じですね。そうすることで生物多様性が維持できるということを、自分の体で経験して理解してほしいし、自然の豊かさや美しさに、体験を通して気づいてくれればと思います。沼の整備は泥だらけになったりしてなかなか過酷なので、豚汁やジンギスカンを振舞って、楽しみもあるようにしています。


篠路福移湿原のビオトープの植栽に参加してくれた皆さん。

 

若い人たちが気軽に参加できる工夫

 こういった活動を主体にしていると、子どもの頃は来てくれても、大きくなると来なくなるという話がありますが、この会の場合は私が高校の科学部の顧問だったこともあって、中高生から、卒業した大学生などの世代も多いですね。やはり科学や生物が好きな子たちは、きちんと関心を持って学びたいと思っているんです。若い子たち同士はSNSなどでつながっているのも大きいのかもしれませんね。あとは活動のあとの焼き肉で惹きつけているのもあるのかも(笑)。
 例えば中学生に対しては高校生が指導するというふうに、若い人の中でもきちんと縦のつながりができているというのも大きいと思っています。私たちは高校生にも仕事を割り当てて、リーダーをやってもらうようにしています。川に行って観察して、帰ってきて、調べてという一連の流れを、高校生が小中学生に指導したりする機会もあるのですが、そういった経験がやはり学生たちのスキルアップになるんですね。そのためには学生が参加しやすいように、学校行事や定期考査、模試などの時期を外すなど、参加しやすい計画にするようには工夫しています。また、フィールドに出る時は学校の責任ではなくて、何かあった場合にもこちらで責任を取るという形で活動しています。続けて参加してくれる子どもたちは、やはり大事に育てていきたいと思いますから。
 その一方で、高齢の方の参加もすごく有難いです。草刈をする時の鎌の刃を研いだり、経験がないとできないことをしてくれたり、教えてくれたりする。鎌なんて、数人で100本ぐらい研いでくれたりするんです。
 でも、子どもでも大人でも、参加してくれる人が自然とふれあい、うれしそうにしてくれるのが私にとっては何よりの楽しみです。大変なことはもちろんありますが、それがあるからこそ続けていけているのでしょうね。作業のあと、整備した場所を見ながら飲む一杯のビールもモチベーションのひとつかもしれませんが(笑)。
 運営に関しては、やらなければいけないことはたくさんありますが、まずは事務局のメンバーの結束をいちばん大事にしています。コアメンバーは9人ほどですが、ほとんどが現役で仕事をしているし、現役の学生もいます。年齢も立場もいろいろな人が集まっているからこそ、話し合いをして、それぞれの意見に耳を傾けることが必要です。いろいろな意見を聞くというのは大変なことですし、それに関しては今もよく悩みます。でも面倒だからといって投げ出さず、ポジティブに考えるようにすることが継続にはいちばん必要なのかもしれません。


トンネウス沼整備の様子。

 
 
今後取り組みたい活動やテーマ

 現在は札幌市をはじめ、さまざまな地域の人に参加してもらっていますが、もっと地元の人にも参加してほしいと思っているんです。今は自然にすごく関心を持った人が多く集まっていて、それはすごく有難いことですがもっと気楽に参加する人も増やしていきたい。“カラカネさんに聞けば自然のことを何でも教えてくれるし、イベントに行ったら楽しいよ”というふうに、老若男女が集まってくれたらいいですよね。
 河川協力団体との協業も今後できればと思っています。今は川辺の草刈りなどをボランティアで行っていますが、これが仕事になると、会の継続という面でもいいなと思います。
 また2004年に、湿地を守るためのナショナル・トラスト運動を行うためにNPO法人になって、その後2013年に認定NPO 法人になりました。信用を得やすくなったというメリットはありましたが、寄付を集めるという面ではあまりうまく機能していません。宣伝の仕方が下手なのもあるのかもしれませんが……。今はコロナ禍でイベントなども縮小したり中止したりせざるを得ないので、これを機に動画などで活動を発信していくのもいいかもしれません。人を集めるためには、もう少し当会の活動や理念の発信をがんばっていきたいなと思っています。

綿路昌史さん

認定特定非営利活動法人カラカネイトトンボを守る会
あいあい自然ネットワーク 理事長


1997年6月 地域の自然保護団体「カラカネイトトンボを守る会」を設立
2009年   当会事務局長
2010年   認定NPO法人となる
2016年   理事長就任

1990年に札幌拓北高校(2013年統合、2015年閉校)赴任。生徒たちと
ともにあいの里の自然、動植物の観察を始める。 現在はNPO法人の
理事長として、河川や湿地の環境保全や保護を通し、生物多様性を学ぶ
機会を作る活動を精力的に行っている。

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