【河川基金からのお知らせ】

河川財団奨励賞受賞研究
「高分解能音響イメージングによる沈水植物の空間分布調査手法検討」

2021/01/19 事例紹介

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 助教 水野 勝紀 さん


イメージングソナーと沈水植物の3次元音響画像

 

令和元年度の「河川財団奨励賞」を受賞された東京大学大学院新領域創成科学研究科 助教 水野 勝紀 さんに、今回の受賞対象となった研究の概要や成果、今後の様々な活動への抱負などをお聞きしました。(河川財団奨励賞は、河川基金助成を受けられた研究者のうち、今後の活躍が期待される優秀な若手研究者を表彰するものです。)

 

受賞された研究の概要

 沈水植物は、水域の生態系保全に重要な役割を担っていますが、場所によって、沈水植物の減少、あるいは異常繁茂が問題視され始めています。これらの水生植物は、水中に生息しているため維持管理や修復作業が難しく、またその存在自体が周知されにくいことも課題です。このため、沈水植物管理事業を進める上で、現状の分布状況の把握や修復作業後の持続的な経過観察が可能な観測手法が要望されていました。受賞対象となった本研究では、高分解能音響イメージングソナーを用いて、従来よりもはるかに高精度な沈水植物の空間分布把握手法を新たに開発し、その精度を検証しました。
 音響計測で一般的に知られている魚群探知機は、エコーの反射状況を利用し対象物の魚群の位置・大きさ・量・魚種が推定できます。本研究ではその特性を応用しており、さらに魚群探知機よりも高い周波数の高分解能音響イメージングソナーを提案しました。その利点は、沈水植物の形状も認識することが可能になり、得られる情報が格段に増える事です。ただし分解能が高くなると、船の揺れや位置等の補正さらにノイズ除去の作業が必要となるため、それらを考慮した処理技術、また得られた音響画像データから植物の種類を自動的に分類する音響画像処理アルゴリズムも独自に開発しました。最終的には、これらの計測手法の成果検証を行い、極めて高い沈水植物のバイオマス推定手法を確立できたことが今回の研究の一番の成果だと思っています。
 この計測手法は、これまでのダイバーによるサンプリング調査手法などと比べ、生息環境を保持した状態で沈水植物の広がりを3次元的に定量化することが可能となりますし、調査効率の面でも優位性の高い手法です。さらには濁度や光量の影響を受けないため、富栄養化の進んだ環境で植生調査を実施する際の有効な計測手段として、今後の研究の指針となると期待されます。

 

分野横断的な研究テーマに取組む

 今回の研究は、生物・環境系研究者の方々から、水中の沈水植物調査に関する相談を受けたことが始まりで、私としては今まで得ることが出来なかった情報をいかに効率よく正確に取得することが出来るかという工学的な観点から参加しました。しかし実際にフィールドでデータを取得してみると、波の補正や微粒子等のノイズ、植物の分類パラメータの整合などが想定以上に難しく、データ取得後の解析作業は試行錯誤の連続でした。本研究成果を日本陸水学会(2014年度)で発表したところ、3次元画像で植種が判別できることが水生植物を扱う生物・環境系の研究者には新鮮な印象を与えたようで、「最優秀ポスター発表賞」を戴きました。また学会後の懇親会における話の中から、今回の技術を別のフィールドに展開する機会も得ました。
 私の研究は、沈水植物だけでなく、あらゆる環境を対象にしていますので、様々な研究者の方から調査などに関する相談を多くいただきます。また私自身、新しい世の中のニーズに出会うことにもなりますので、この分野横断的な研究テーマに取組むことは、エンジニアとしてやりがいがありますし、最も楽しみなことの一つです。

 

技術の世界標準化へ

 本研究で開発したシステムは、高精度で高効率な調査手法として需要も多く、今回実施した栃木県の湯の湖を契機に琵琶湖でも調査しています。
 海外では、現在フィリピンのミンダナオ島で、世界有数の美しい海を観光資源とした産業振興が進められており、発展途上国におけるリゾート開発と環境保護の両立という課題を解決するため、今回開発した計測技術などを活用してサンゴや海草調査を実施して、海洋環境の定量化・見える化を行い、時間的変化と環境変化を迅速にフィードバック出来る仕組みを構築しています。
 このように、河川、湖、海などの水圏環境に関する様々な分野において本研究成果の発展が期待されていますし、今後、実績を積み重ねながら技術の世界標準化を進めていきたいと考えています。多くの場面において自分の技術が活躍する、それこそが社会への貢献であると考えています。

 

医療分野から海洋環境に、その根本は社会貢献

 小さい時から、ミニ四駆などをきっかけにエンジニアリングに興味を持っていました。また高校生の時は、クラスメイトの半分程度は医学系に進むという環境にもあり、社会貢献を考える上で医療は直接人に貢献できるという思いから、工学と医学を組み合わせた医療工学の分野に進みたいと思っていました。その後、同志社大学の電子工学科に進み、超音波関連研究を推進する国内最大規模の超音波エレクトロニクス・応用計測研究室に入り、大学院では超音波骨粗しょう症診断装置の開発に関する研究テーマに取組み、卒業後はパナソニック株式会社で、医療用の内視鏡に用いられる光センサの開発業務などに携わりました。
 それでもやっぱり自分にとって、人の目に見えないものを計測する超音波技術が忘れられずに、社会人ドクターとして大学で研究していたところ、恩師の渡辺好章先生から、人材が不足している海洋音響の研究に取り組んでみないかと言われました。寝耳に水であり、医療から海洋への研究転換はとても迷いましたが、医療以外でも社会に貢献できると思いましたし、新しいことにチャレンジしてみたいという気持ちもあり、海洋の分野に飛び込みました。そこで出会ったのが今専門としている海洋環境計測です。
 もともと、海が好きだったというのもありますが、この研究が自分の感性にピッタリはまり、海の仕事を重ねるうちに、次世代の子供たちが海の恵み、資源や美しい景色などを持続的に利用できるには、今私がどの部分で貢献できるかを考えるようになりました。いまだ可能性は様々な視点から模索していますが、一つには私が得意とする部分を活かした海洋環境計測技術の開発と展開という部分だと思っています。
 現在進めている海洋環境システムに関する研究は、人間活動、例えば洋上風力発電などの再生可能エネルギー施設の開発、リゾート開発、資源開発、ゴミの排出などが自然にどのような影響を与え、そして周り回って我々人間にどのような影響を与えるか、その仕組みや関係性をシステムとして考える比較的新しい分野です。私が所属している環境システム学専攻は、大気圏、地圏、水圏などにおいて、これら人間界と自然界の相互関係をシステム的に考える、分野横断的で特色のある専攻です。

 

何事も測れないものはない

 医療から海洋の分野に転換した人は少ないと思いますが、それぞれに通ずる部分も多く、医療で培った技術を海洋の分野に応用すると面白いことが出来ます。例えば、海底の砂や泥の中を伝搬する音の特性と、人間の骨の中を伝搬する音の特性を計算するための方程式はそっくりで、ほとんど同じセンスで考えることができます。現在この技術開発を進めていますが、これまでの知識が大いに役立っています。計測するスケールや対象物、計測環境によって注意すべき点は変わってきますが、原理的には同じであると感じています。この仕事をしていますと、本当に色々な方から色々なものを測りたいと相談を受けますが、「何事も測れないものはない」という気概で取り組むようにしています。
 最後に。海洋研究に携わる人材不足は本当で、特に私のやっている分野は世界的にも研究者が少ない状況です。ですから専門性を問わず、様々なバックグラウンドの学生や若手研究者、企業の方を対象とした人材育成や共同研究にも力を入れています。やはり研究を進める上でマンパワーは大事ですし、多様なアイディアを集めるためにもバックグラウンドの異なる人がいることが大切です。海洋環境計測やその応用に興味を持たれた方は、是非一度研究室にお越しください。

 
 
東京大学大学院新領域創成科学研究科 水野勝紀さんの取組み

現在は、超音波を使って水底下の堆積物中の環境情報を非破壊で取得するための新しい技術を開発しています。堆積物の中にはアサリなどの底生動物が生息しており、水質浄化・栄養循環・生態系の維持などにおいて水圏環境に影響していると言われていますが、それらの生息分布や生態は断片的にしか分かっていません。さらに、堆積物のサンプリングは、時間、コスト、労力を要する上に、継時的な変化を捉えることが困難になるため、それら課題を解決する必要があります。今後、人間活動や地球環境(水温、塩分濃度など)の変化が底生動物にどのような影響を与え、そしてまた人間にどのような影響を与え得るのか、それらの問いにチャレンジしたいと思っています。
(写真:湖底下の3 次元音響画像)

水野勝紀 Katsunori MIZUNO

東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻・助教

1983年愛知県名古屋市生まれ。地表の約7割を覆う海や川、湖沼などの「水圏」と「人間」が相互に及ぼし合う影響の把握を目的として、陸上で生活を営む我々が普段取得し難い水圏情報を効率的、定量的に得るための新しい水圏環境計測技術を開発している。電気主任技術者、潜水士などの国家資格を保有。

【学歴】
2006年 同志社大学工学部電子工学科 卒業
2008年 同志社大学大学院工学研究科電気工学専攻修士課程修了
2012年 同志社大学大学院生命医科学研究科生命医科学専攻博士課程修了
    (一ヵ年短縮)(博士(工学))

【職歴】
2008年 パナソニック株式会社
2012年 東京大学生産技術研究所海中工学国際研究センター特任助教
2012年 同志社大学波動エレクトロニクス研究センター嘱託研究員
2014年 東京大学生産技術研究所海洋探査システム連携研究センター特任助教
2016年 東京大学生産技術研究所海中観測実装工学研究センター特任助教
2018年 フランス国立科学研究センター(CNRS)客員研究員
2019年 サウサンプトン大学国立海洋センター(NOCS)客員研究員
2017年より現職

【受賞】
2019年 特定非営利活動法人 海洋音響学会 「論文賞」
2017年 日本海洋工学会 「JAMSTEC 中西賞」
2017年 スウェーデン大使館 SDG14「 海の豊かさを守ろう」ビデオコンテスト「優秀賞」
2016年 テクノオーシャン・ネットワーク「海のフロンティアを拓く岡村健二賞」
2015年 河川財団河川整備基金研究優秀成果賞など

【所属学会】
海洋音響学会、海洋調査技術学会、海洋理工学会、IEEE OES、船舶海洋工学会、日本陸水学会

【主な執筆論文】
https://researchmap.jp/kmizuno を参照。