【河川基金からのお知らせ】

河川財団奨励賞受賞研究「東京湾流入河川海岸におけるマイクロプラスチック堆積量のモデリングとマッピング」

2021/01/18 事例紹介

東京理科大学 理工学部 土木工学科 助教 片岡 智哉 さん


荒川下流部(左岸)の漂着ゴミ(プラスチック製品が非常に多く確認できる)

 

令和元年度の「河川財団奨励賞」を受賞された東京理科大学 理工学部 土木工学科 助教 片岡 智哉さんに、今回の受賞対象となった研究の概要や成果、今後の様々な活動への抱負などをお聞きしました。(河川財団奨励賞は、河川基金助成を受けられた研究者のうち、今後の活躍が期待される優秀な若手研究者を表彰するものです。)

 

研究概要

 わたしたちの生活に欠かせないプラスチックは、自然界に流出し分解され、マイクロ化して海洋環境中で発見され、地球規模の環境問題となってきています。
 2016年6月から、河川を経由し海洋へ流出するマイクロプラスチック調査を行っております。実は、これまで日本の河川でマイクロプラスチック問題がどれくらい広がっているかの調査が行われておりませんでした。そのためにもまず国内河川におけるマイクロプラスチック汚染の現状を把握して流域の皆様にお伝えすることを目標としました。
  調査は、東京湾に流入する江戸川、荒川、多摩川など8河川を対象にスタートし、現在では70河川90地点で調査をしてきました。その中でも人口が集中する都市圏がある関東、近畿、中部は重点地域としており、これらの地域でかなり汚染が進んでいることが分かってきました。
 今回の研究成果では、海から離れた内陸部の河川からもマイクロプラスチックの流出が確認され、自然水域に存在するマイクロプラスチックの現状を把握し、調査結果を内陸を含む流域の市民に伝えることにより、プラスチック製品の取り扱いについての啓発活動の強化につながると考えています。
 マイクロ化したプラスチックが河川を経由して海に流出することで海洋生態系に悪影響が出ることが危惧されています。定期的なモニタリングをすることによって、河川へのマイクロプラスチックの流出を抑制していき、廃棄物管理の高度化を図っていく必要があると感じています。
 ただ、現在の調査では、人が目視でプラスチック粒子を一つ一つ分析しているのが現状です。今後、マイクロプラスチックの汚染状況を継続的にモニタリングしていくためには、マイクロプラスチックの同定が自動化もしくはより簡素化していくことが必要があると感じています。加えて、マイクロプラスチックだけでなく、微細化する前のマクロプラスチックのモニタリングも必要になると考えております。これらを両立して推進することで、流域における河川へのプラスチックの流出状況を把握することが可能となり、プラスチック廃棄物の管理の高度化につながると考えています。

 

今後の研究の展開

 国内河川におけるマイクロプラスチック排出量の調査・研究は、主として河川の流心かつ水表面で行っております。実際には横断方向(水平面の流れに対して垂直な方向)や鉛直方向(水平面に対して鉛直な方向)にマイクロプラスチックが分布していますので、横断方向に複数の地点と鉛直方向に複数の深度でのマイクロプラスチックの濃度を調べて、それを基に横断面方向全体のマイクロプラスチックの輸送量を推計していきたいと考えています。
 これまでの調査・研究により、マイクロプラスチックの濃度の鉛直分布と横断分布を調べているので、それらを考慮して横断面全体の輸送量が評価していきたいと考えております。さらに、流心におけるマイクロプラスチックの濃度との関係を調べることで、流心1点のマイクロプラスチックの濃度から横断面全体の輸送量を評価・推計するためのモデルづくりを進めています。さらに、河川形状や流域特性が異なる全国の多くの河川でマイクロプラスチックの濃度を調べ、このモデルに考慮することを考えています。最終的には、このモデルを全国の河川に適用することで、国内の河川経由のマイクロプラスチックの流出量を見積もりたいと考えています。

 

マイクロプラスチック研究への軌跡

 学部時代に在学していた徳島大学では、耐震工学に関する研究を行っており、実は水に関する研究は全く行っていませんでした。水に関する研究を始めたのは2009年に、国土技術総合政策研究所(国総研)の横須賀庁舎(現 沿岸海洋・防災研究部 沿岸域システム研究室)に配属になってからです。当時は、海岸に漂着するプラスチックゴミの研究をしておりました。まず海岸に漂着するゴミのモニタリングのために、ウェブカメラを全国9地点に設置し、カメラの映像から定量化してごみの変動調査を行っていました。
 調査をしていると突然海岸のゴミが減る時があり、それを解明するため、東京都伊豆七島の新島の和田浜海岸を調査地点に選定して、2~3か月に1回の現地調査をスタートしました。現地調査では、プラスチックゴミが海に漂着してから再漂流するまでの海岸でのプラスチックゴミの滞留時間を計測することを目的として、海岸のプラスチックゴミの追跡調査をひたすら行っていました。その結果、海岸で漂着したゴミは半年から1年ぐらいで、海に再漂流していることがわかり、滞留時間が海岸のスケール、沿岸の流れや波の作用によって滞留時間が決まることが明らかになりました。
 当時は、それと並行して、海岸でのプラスチックゴミのモニタリング技術を開発した経験を生かして、河川でのマクロプラスチック(マイクロプラスチックよりも大きいゴミ)のモニタリング技術の開発を東京理科大学の二瓶教授と共同して進めていました。
 海岸でのプラスチックゴミの研究を進める内に、プラスチックが陸域で急速に劣化することと海洋プラスチックの8割が陸域から流出しているという報告を知り、より発生源に近い河川でのプラスチックの汚染状況を調べたいと思うようになりました。そこで、共同研究を行っていた東京理科大学の二瓶教授がいらっしゃる理科大にお世話になることに決め、一緒に河川でのマイクロプラスチック研究をスタートしました。

 

マイクロプラスチック問題の解決・対応策

 マイクロプラスチック問題の元を断つというのは非常に難しいです。それは、我々の生活のほぼすべてがプラスチックで成り立っており、私たちの身近な例ですと、ペットボトルや様々なプラスチック容器だけでなく、洋服やマスクもプラスチック繊維からできています。
 この問題は、様々な要因により陸域に散乱したプラスチックゴミが微細化して、側溝などを介して河川、海へと流出することで顕在化しつつあります。
 例えば、我々が生活していると、道路や線路沿いにポイ捨てされたプラスチックゴミをよく目につきます。これらのプラスチックはまず紫外線で劣化が始まり、そのあと熱で劣化が進行していきます。その後、細かくなり側溝などを通過し、最終的には河川から海へと流れ込んでいきます。そのため、我々は、ポイ捨てされたプラスチックゴミが、その土地の景観の悪化だけではなく、河川や海も汚していると認識する必要があります。これに加えて、道路、鉄道、下水道、河川の管理者などの多様なステークホルダーが一体となって流域圏全体で問題意識を共有・協働して解決策を検討・実施していくことが重要であると考えています。
 日本近海には、世界の平均濃度の27倍マイクロプラスチックが浮遊していると報告されています。東南アジアなどの発展途上国と比べて国内の廃棄物管理レベルは高いことと国土の面積・人口を考えると、海流にのって他国からきているものが多いと思いますが、現状断定は出来ません。これは、国内からどのくらいプラスチックを海に出ているかがわかっていないからです。従って、国内におけるプラスチックの流出量をしっかり把握していくことが重要です。それと並行して他国でも適用可能な河川でのプラスチックの計量手法を開発することで、世界におけるプラスチック流出量の把握、強いては廃棄物管理レベルの向上に貢献していきたいと考えています。
 

これからの目標

 これまで国内河川におけるマイクロプラスチックの濃度を調べてきて、国内でのマイクロプラスチックの汚染状況が概ねわかってきました。今後、国内河川から海へのマイクロプラスチックの流出量を推計していくとともに、さらにモニタリングを展開していきたいと考えています。最近では、大気中でのマイクロプラスチックが輸送されていることが指摘されています。例えば、人為影響の小さいピレネー山脈で浮遊物を集塵機で集めてみると、パリの市街地と同等の濃度のプラスチックが発見されました。従って、大気から海や川にマイクロプラスチックが流入している可能性もあり、これまでの海岸や河川に加えて大気中のマイクロプラスチックに関する研究も進めていきたいと考えています。

  

若手研究者へのメッセージ

 研究者の魅力は自分のやりたいことを自分の力で成し遂げ、その成果を世に出して社会貢献できることだと思います。そのため、この魅力に惹かれた若手研究者の皆さんは、是非そのまま邁進してください。また、研究者になることは必ずしも大学で働くことだけではなく、企業や国の研究所など色んな道がありますので、この魅力に惹かれた学生の皆さんは、是非研究者の道を歩むことを志してください。ただ、すでに感じている若手研究者も多いかと思いますが、その道は決して平坦ではありません。自身で研究費を獲得しながら、限られた時間の中で一つでも多くの成果を出していく必要があります。また、研究課題が多様化しているとともに、英語ジャーナルに論文を投稿して世界に発信していくことが強く求められています。しかし、その苦楽の末に出た研究成果は、研究者としての大きな糧となり、自信につながります。これらの経験を忍耐強く繰り返すことで、研究者としての自己価値が増してくると思います。そのため、初心を忘れず、自分の興味あることを探求する姿勢を是非貫き、前向きに研究者生活を邁進してください。私も一若手研究者として皆さんと一緒に国内の水工学分野の研究を盛り上げていきたいと思います。

 
 
片岡 智哉 Tomoya KATAOKA

東京理科大学 理工学部 土木工学科 助教

1983年三重県生まれ。河川、海岸及び沿岸海洋をフィールドに、現地調査を軸とし、画像解析、統計解析及び数値計算を併用した多様なアプローチで水環境や水防災の研究に取り組んでいる。

【学歴】
2006年 徳島大学 工学部 建設工学科 卒業
2014年 豊橋技術科学大学 大学院 理工学研究科
      環境・生命工学専攻 修了・博士(工学)取得

【職歴】
2006年~2007年 国土交通省中部地方整備局にて工事監督業務に従事
2007年~2009年 国土交通省国土技術政策総合研究所にて情報処理及び
           情報ネットワーク業務に従事
2009年~2016年 国土交通省国土技術政策総合研究所にて
         海洋プラスチック汚染に関する研究や短波海洋レーダを
         用いた流況・波浪計測に関する技術開発を実施
2016年より現職

【受賞】
2012年 50th ECSA BEST STUDENT ORAL PRESENTATION AWARD
2013年 平成24年度日本港湾協会論文賞
2016年 平成27年度水路技術奨励賞
2019年 令和元年度河川財団奨励賞
2019年 第74回年次学術講演会優秀講演者賞

【所属学会】
土木学会、日本海洋学会、AGU

【主な執筆論文】
・Kataoka, T., & Nihei, Y.( 2020). Quantifi cation of fl oating riverine
macrodebris transport using an image processing approach. Scientifi c Reports,
10(1), 2198. doi:10.1038/s41598-020-59201-1
・Kataoka, T., Nihei, Y., Kudou, K., & Hinata, H.( 2019). Assessment of the
sources and infl ow processes of microplastics in the river environments of
Japan. Environmental Pollution, 244, 958-965. doi:https://doi.org/10.1016/
j.envpol.2018.10.111
・Kataoka, T., Murray, C. C., & Isobe, A.( 2018). Quantification of marine
macro-debris abundance around Vancouver Island, Canada, based on
archived aerial photographs processed by projective transformation.
Marine Pollution Bulletin, 132, 44-51. doi:https://doi.org /10.1016/
j.marpolbul.2017.08.060
・Kataoka, T., Hinata, H., & Kato, S.( 2015). Backwash process of marine
macroplastics from a beach by nearshore currents around a submerged
breakwater. Marine Pollution Bulletin, 101(2), 539-548. doi:10.1016/
j.marpolbul.2015.10.060
・Kataoka, T., & Hinata, H.( 2015). Evaluation of beach cleanup effects
using linear system analysis. Marine Pollution Bulletin, 91(1), 73-81.
doi:10.1016/j.marpolbul.2014.12.026

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