【河川基金からのお知らせ】
トンボの生態から薬剤耐性菌を探る、ジュニア研究者の奮戦
2021/03/31
市立札幌旭丘高等学校
生物部(2年) 葉山 結月 さん 生物部顧問 大宮 祐男 さん
河川基金助成事業研究者・研究機関部門において、「自然界の薬剤耐性菌を探せ!Ⅲ ~トンボと河川を巡る耐性菌~」という高校生にとっては難関な研究課題に果敢に取組んだジュニア研究者たちにいろいろとお話を伺いました。
薬剤耐性菌とトンボのマッチング
【葉山】4年前、先輩がG7で薬剤耐性菌の危険性を知り、そこから耐性菌について調べ始めました。抗生物質の効かない薬剤耐性菌については世界的にも注目されていますが、自然界での分布状況や増殖するシステムについての研究が進められていないことがわかりました。
そこで、自然界の薬剤耐性菌の動向を、トンボを通して調べることにしました。トンボはヤゴ( 幼虫) の時に水中で、成虫になったら陸上で過ごします。水陸両方の影響を受けることが、薬剤耐性菌の研究に適していると考えた訳です。
【大宮】本校では、綿路(わたじ)前顧問の時から10年以上トンボの研究をトンネウス沼で実施しています。どの時期にどんな種類がいるのか、継続調査しています。トンボを調べながら、毎年派生した研究をする中で薬剤耐性菌という視点が今回出てきました。
トンボの生態から薬剤耐性菌を探る、その解明における北大との連携
【葉山】私たちは、トンボの生態観察結果から、薬剤耐性菌がヤゴ体内で増加しているのではないかと考えました。そこで、ヤゴを薬剤耐性菌が添加された水で飼育し、菌数の変化を調べました。また、ヤゴの体内で薬剤耐性菌が集積しているところがあると考え、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を組み込んだ細菌(GFP菌)を添加して飼育し、腸管内や糞便を蛍光顕微鏡で観察しました。
今回の研究の結果、水平伝播という現象によって、短時間の内にヤゴの体内で薬剤耐性菌が大幅に増加することがわかりました。また、GFP菌がヤゴの胃に集積すること、全個体のヤゴの糞便にGFP菌が含まれることを確認しました。
このことから、河川水中にある薬剤耐性菌は、ヤゴが昆虫を食べる際などにヤゴ体内に入り、胃に集積して増加した後、腸管から排出され河川に戻るという可能性が示唆されました。
【大宮】今回の研究では遺伝子組換え細菌を使うので、高校の設備では実験観察を行うことができません。そこで、北海道大学に協力をお願いして遺伝子組換えができる施設を使わせていただき、6月下旬から8月末にかけて2カ月以上実験室に通いました。北海道大学大学院保健科学研究院では施設の使用だけでなく、先生方に数十回に渡ってご指導をいただき大変感謝しています。
【葉山】去年入学した私にとって、今回の研究テーマは難解でした。まだ生物を習う前で、急に大腸菌とか耐性菌が何だとか難しいワードが飛び交って混乱し、何度も先輩に聞いたりしていました。また、私たちが北大に行ける時間は限られているので、私たちが北大にいない時間帯にヤゴがすごく死んでしまったんです。なので、トンボの腸管内を調べるこ
とができませんでした。やはり相手が自然なので思うようにいかないと思いました。
ヤゴが死んでしまって実験が中々うまく進まない時に、北大の先生や前顧問の綿路先生から助言をいただいて、先輩と一緒に試行錯誤を繰り返してどうにか成果にたどり着けました。薬剤耐性菌が自然界に結構あるんだな、と実感しました。でも、まだまだ分からない事や課題はあります。
今回の実験では、自然界における薬剤耐性菌の濃度に対して非常に濃い濃度の菌を添加した水でヤゴを飼育したので、本当に自然界でもヤゴ体内で薬剤耐性菌の増殖が行われるのか、まだ解明できていません。
【葉山】今回使用した薬剤耐性菌は実験株で、自然界のものとは異なります。河川水にいる自然界の菌を使ったらもっと明確にメカニズムを解明できると思います。今年は実験できませんでしたが、来年は試みようと思っています。
また、北大の方々には大変感謝しています。初めて研究室に行った日は、中学校では考えられないレベルの知らない器具がたくさんあって「これなんですか?」って何度も聞きました。北大の実験室や設備はすごいなって感動しました。
この研究に参加して得たもの、今後の展望
【葉山】子どもの時は読書が好きで、将来は文系かなと思っていました。中学校の頃は帰宅部でしたが、思い直して高校に入ったら急がしい部活に入ろうと思って生物部にしました。今回の研究では、中学時代には考えられないくらい、色々な体験をしました。そもそも川や沼の中に入るということすら考えられなかったのですが、今はとても楽しくトンボやヤゴの採取や観察をしています。
【大宮】生物部には、トンボに興味のある生徒が多くいます。水がなければトンボは産卵できないし、ヤゴも育ちません。また、沼で調査を行う際に、水の汚れや岸のゴミなど周辺環境を見る場面が多くあります。
真摯にトンボの生態を見ようとすると、自然環境もセットで意識せざるを得ないということが大いにあると思います。
【葉山】今回の研究成果は、昨年の全道高等学校理科研究発表会の研究発表部門で最高賞である総合賞をいただきました。その時は本当に頑張ってよかったと思いました。また全国大会では、全国の高校生の研究を聴くことができ、自分の世界が広がる素晴らしい経験になりました。生物部で理科に魅力を感じて、現在では将来は理系に進みたいと考えています。
【大宮】生物部では10年以上ずっとトンボの研究を続けています。このデータの蓄積から、今まで少なかったトンボが年々増えてきている、といった変化に気づきます。そこから河川や水との関係など、生徒がテーマを見つけて研究しています。今年入学した生徒も研究の手伝いをしていますが、先輩方を見て研究に魅力を感じる生徒が出てくる、そのことを大事にしたいと思います。
最近は、地球温暖化とトンボの生態に何か関係があるのではないかと、ナツアカネとアキアカネを使って研究に取組んでいるグループもあります。何とか糸口がつかめたらと思っています。
その他、ミジンコやプラナリアを研究している生徒もいます。
主体的な学習環境とその学びを重んじる校風
【大宮】トンボの研究を長年行っていますが、基本的には「生徒の好きな生物とテーマ」を最大限尊重し、自由に研究活動を行っています。自身で研究計画を立てて実行する「自主性」を大切にしています。
生徒たちには、身近な物事に対して各々が日頃抱いている「なぜ?」に対して、物怖じせずに高校生らしい自由な発想で立ち向かってほしいと願っています。
旭丘は前任の綿路先生の指導もありますが、「生徒がやりたいものをやらせたい」というスタンスで来ているので、それは維持したいと思っています。
【葉山】自由にやらせてもらったと感じます。また、札幌旭丘高校は単位制で比較的自由なイメージがあります。その一つが「Sunrise Time(サンライズタイム)」で、個々に興味のあるものを探究して、論文にまとめるという授業です。このように、自由や自主性を尊重する校風が良いと思います。また、この高校は山の上にあり眺めも良く、裏には川が流れて、アカネなどのトンボが飛んでいたり、狐も見かけたりします。他の高校より自然が多く、環境にも恵まれていて学びに適した学校です。
【大宮】「Sunrise Time」は総合学習の時間で、全生徒が個々にテーマを選んで研究して、最後に論文作成・発表を行います。テーマは自由です。このような活動を含めて、学校として主体的な学びを重んじていて、生徒の自主性を育むという気風があります。
また、札幌旭丘高校生物部は、毎年全道大会を始め様々な発表会に参加しています。どんな説明資料にするか、どのようにプレゼンすれば相手に伝わるか、顧問の助言をもとに議論し練り上げて挑みます。発表会への参加を通じて、生徒たちは貴重な経験を積むことになります。
この経験が、生徒たちを大きく成長させてくれます。今後ともこの取り組みを支えて行きたいと考えています。
最後に、河川財団の助成制度や表彰制度は、生徒たちの好奇心や探究心を育む制度で、大変ありがたく思っています。今後も、是非継続していただきたいです。
市立札幌旭丘高等学校生物部 葉山結月さん達の取組み
生物部では長年トンネウス沼において、どの時期にどんなトンボが何個体いるかモニタリング調査をしています。これをベースに様々な研究に取組んでいます。最近では、トンボと地球温暖化の関係を調べるため、ナツアカネとアキアカネに着目した研究を行っています。週末のトンボ採集調査に加えて、ラボでの実験も平行して進めています。研究活動以外でも、ミジンコ、プラナリア、アオダイショウ、カエルなど様々な生き物を飼育しています。(左:トンネウス沼のナツアカネ雄、右:セスジイトトンボ雄)
(写真左)
葉山 結月 Yuzuki HAYAMA
市立札幌旭丘高等学校・生物部(2年)
(写真右)
大宮 祐男 Masao OMIYA
市立札幌旭丘高等学校・生物部顧問(教諭)
【受賞歴】
〔H29年度〕
全道高等学校理科研究発表大会 研究発表・生物部門 総合賞
日本学生科学賞北海道審査 読売新聞社賞
〔H30年度〕
全道高等学校理科研究発表大会 研究発表・生物部門 総合賞
ポスター発表部門 優秀ポスター賞
日本学生科学賞北海道審査 北海道教育委員会教育長賞
高校生バイオサミットin 鶴岡 審査員特別賞
全国ユース環境活動発表大会全国大会 優秀賞
〔R1年度〕
全国高等学校総合文化祭 自然科学部門・研究発表生物部門 出場
コカ・コーラ環境教育賞 次世代支援部門 優秀賞
全道高等学校理科研究発表大会 研究発表・生物部門 総合賞
ポスター発表部門 優秀ポスター賞