【河川基金からのお知らせ】

河川⽔中のマイクロプラスチック実態解明に向けた先進的アプローチ
~世界初20 μm 以上のMPs の分析方法を開発~

2019/10/08 事例紹介

千葉工業大学創造工学部都市環境工学科 准教授 亀田 豊さん

鶴見川河川水中のMPs を自動で測定できる開発した分析手法


 水質工学、環境化学を専門されている亀田豊准教授から、「実測とシミュレーションモデルによる関東地方河川水中マイクロプラスチックの存在実態把握」の研究についていろいろとお話を伺いました。
 

水環境中におけるマイクロプラスチックの調査研究の重要性

 水環境におけるマイクロプラスチック(MPs:5㎜以下)は1970年代に問題となり、多数論文が報告されましたが、当時あまり話題とはなりませんでした。ここ10年前くらいから、ヨーロッパを中心にMPsが学会で多く取り上げられるようになり、この調査研究の必要性を痛感しました。
 それまでの調査研究で、パッシブサンプリング法による目に見えないセシウムや農薬など溶存性の物質を対象に行っていたので、今度は溶けていないMPsに興味を持ったこと、また、プラスチックは現在の社会では欠かせない重要な素材であり、MPs問題の解決は世界の産業構造のサプライチェーンや開発方向を大きく変える可能性があるため、研究を始めました。最近では、多くのマスコミ等で海洋生物体内のプラスチックごみの画像やプラスチック繊維で身動きが取れなくなった生物の画像などがニュースに取り上げられ、さらに、スクラブを入れた洗顔料などの化粧品が世界的に販売されたこともあり、海洋の大きなごみからMPsまで、地球規模の環境問題となってきています。現在、水環境中のMPsは世界的にも単なるヒト健康への影響のみならず、生態影響、有害化学物質のベクターとしての挙動、景観悪化、資源循環等の観点で大きな課題であり、その調査研究は非常に重要と考えています。

 

マイクロプラスチックの自動調査分析方法の開発

 当時の調査方法は、MPsに見えるものをピンセットでピッキング(つまむ)して濃度を計測する方法でしたが、それでは同じサンプルでも分析者によって結果が大きく異なるため、当初から自動計測で調査研究をしようと考えていました。
 しかし、思い当たる機器を使って自動計測を試みましたが、当初全く上手く行きませんでした。
 1年後ぐらいに、顕微FTIR(アメリカ;サーモサイエンテフィック社製)を使いはじめてから調査がうまく進み始めました。FTIRの使用にあたってはサーモサイエンテフィック社に機器提供を打診したところ、アメリカ本社から統括責任者がわざわざ来校し、私の研究計画を審査していただいた結果、調査研究方法を理解してもらい、幸運にも機器の貸
与の許可をもらう事ができました。これは本研究を進める上でとても大きな展開となりました。
 調査の対象河川は水質等様々なデータがそろっている関東の鶴見川を選びました。
 本調査では河川水1㎥をプランクトンネットで現場においてろ過できる採水装置も開発しました。採水後は研究室で、サンプルを過酸化水素で酸化処理した後、ヨウ化ナトリウム水溶液を用いて比重によりMPsを分別します。この前処理によりその後の顕微FTIRによる分析が可能になります。これにより世界で初めて20μm以上のMPsを自動で同
定定量できる調査及び分析方法を開発することが出来ました。
 また、洗顔料由来のポリエチレンマイクロプラスチック(PE - MPs)の河川水中濃度の把握については、国内洗顔剤消費量、含有製品割合、MPs含有濃度、下水処理場における除去率等を収集し、流域の下水処理場からのMPs排出量を算定するとともに、この排出量をAIST -SHANEL(産総研-水系暴露解析モデル)にインプットして、定常状態における洗顔料由来の河川水中PE - MPs濃度、並びに実測値と比較することでの洗顔剤の寄与率の推定も行うことが出来ました。

 

今回のマイクロプラスチックの調査・分析結果から判明した新たな課題

 鶴見川では、源流地点のMPsが543個/㎥で下流に行くに従い次第に濃度は増加し最下流地点では1,526個/㎥であり、浄化槽や無処理の生活排水の放流水及び下
水処理の放流水が排出されるにつれMPs濃度が増加する傾向が見られました。また、既往の同地点のピッキング可能なMPsの調査結果の300倍程度の測定値を得たことは、この調査方法がMPsをより正確に測定できたと推察され、今後この調査方法が議論されることと考えています。一方、多くの炭の微粒子や一部調査地点でアスベスト状物質が多数検出されたことから、アスベストの河川水中の拡散防止について、またBBQ由来と思われる大量の炭の粒子の存在も水生生物への生態影響など、今後検討すべき課題になる可能性が明らかになりました。
 また、鶴見川河川水中のPE - MPs全体に占める洗顔料中のスクラブの割合は小さいことが推定され、最近の企業の自主規制の効果の有効性が推定できました。また、未規制の粒径10μm程度の口紅中のPE -MPs濃度は非常に高い推定値となり、今後10μm程度のMPs調査の必要性も浮かび上がりました。

 

マイクロプラスチックの調査研究の今後の展開

 今年秋に米国のトロントで開催されるSETACアメリカ学会でのMPsに携わる研究者が集まって議論する国際的調和セッションで、本研究で開発した分析調査手法を発表し、ISO規格的な世界標準調査手法として提案することとしています。
 また、本研究結果に多くの国が興味を示しており、現在、中国の大学での研究に客員教授として参加しており、台湾、ベトナム、バングラディッシュ、オーストラリアの大学と共同研究でマリアナ諸島からヤップ、パラウ諸島、東シナ海、日本を経由する、太平洋西岸地域における、黒潮海流で沿いのMPsの挙動解析のほか、ロシアのバイカル湖、多摩川な
どでも共同研究を行っています。
 MPs研究は下水処理場や浄化槽、面源からの負荷量原単位推定、さらにそれらを組み込んだモデルの開発も現場調査と同様重要です。さらに、食品や飲料水中のMPs研究、MPsの代替物質である生分解性プラスチック等の研究も今後の課題であり、今後10年程度はこの調査研究を進めていきます。

 

マイクロプラスチックの影響と本研究の理解の普及(亀田先生の最近の取組み)

 MPsの調査分析は今後、分析方法の自動化により、世界的に急速に進むことで排出源や環境中濃度などが明らかになっていくと思いますが、一方でMPsの水生生物や陸域生物への毒性影響についてはまだまだこれからです。加えて、人体への影響もいまだ不明点が多い状況です。したがって、環境と共生可能な経済活動を創生するこのような研究に、若い高校生や中学生をはじめ、企業の方にも興味を持っていただければと感じています。最近では本大学でも、小学生向けにMPsを測定する夏休み自由研究講座を体験して貰っています。

 

河川基金について

 河川財団の基金はとても活用させてもらっています。研究は進めるにつれ予想外のことが起きることは当たり前で、その都度研究方法を変更する必要があります。河川基金はこのような場合にとても柔軟性があると思います。基金は10年前に埼玉県の河川水溶解紫外線調査で活用させてもらったのが初めてです。その調査も10年程度かけて理解され、現在環境省が各自治体と協力して全国調査しています。

 

今後の抱負と若手研究者へ

 今の若手研究者はスマホ世代のためか、地道な失敗を繰り返しながら研究を進める「泥臭さ」に欠ける印象があります。また、様々な情報が入手しやすいため、その情報に溺れ、自らそのデータの真偽やその裏にある背景を考えず利用する傾向もあります。本来研究者はその道のプロとして、社会的にももっと評価されるべき存在ですが日本では厳しい立場かもしれません。しかし、安心してください。世界はとても広いです。国内で厳しくても世界には同じ考えの研究者や技術者がいます。こういう時にこそ、情報網の容易さを活用してネットワークを地道に広げて、自分の価値を高め、自分の信じる道を確立してほしいと思います。私も自分の理想像ははるかに遠く、皆さんと切磋琢磨して「環境研究を社会インフラの中心にする」自分の理想に近づきたいと思います。



 
千葉工業大学 准教授 亀田 豊さんの取組み

水中MPs の調査研究を進めるうえで、研究の理解普及にも努めています。現在様々な企業でMPs への関心が高まっており、ぜひその関心を行動に移してていただき、持続的な社会を形成する製品等を開発していただきたく、お手伝いできればと考えています。また、小学生や中学生にも環境化学への関心を高め、興味をもつきっかけ作りとなるよう学習漫画の作成等も手がけています。

(写真:小学生と一緒に砂浜中のMPs を観察する、大学主催の公開講座の様子)

亀田 豊 Yutaka KAMEDA

千葉工業大学創造工学部都市環境工学科 准教授

【学歴】
1990 年4 月~ 1994 年3 月 東北大学工学部土木工学科
1994 年4 月~ 1996 年3 月 東北大学大学院工学研究科土木工学専攻博士前期課程
1997 年4 月~ 2000 年3 月 北海道大学大学院工学研究科環境資源工学専攻博士後期課程

【経歴】
2002 年4 月~ 2004 年3 月 横浜国立大学大学院環境情報研究院産官学連携イノベーション創出事業費補助金研究員
2004 年4 月~ 2007 年3 月 横浜国立大学大学院環境情報研究院21 世紀COE プログラムCOE フェロー
2007 年4 月~ 2008 年9 月 独立行政法人土木研究所専門研究員
2008 年10月~ 2012 年3 月 埼玉県環境科学国際センター 水環境グループ主任研究員
2012 年4 月~ 2015 年3 月 千葉工業大学工学部建築都市環境学科准教授

【現在】
千葉工業大学創造工学部都市環境工学科 准教授
日本環境化学会評議員
一般社団法人セタックジャパン 理事
環境省環境技術実証事業(ETV)の技術評価検討委員
厦門大学客員研究員
台湾逢甲大学客員研究員 等