【河川基金からのお知らせ】

機関庫の川がつなぐ郷⼟愛のこころ

2019/10/08 事例紹介

帯広市立豊成⼩学校(北海道) 校長 高原 茂雄 さん   主幹教諭  小室 素子 さん     教務主任  宍戸 文絵 さん

帯広市立緑丘⼩学校(北海道)   主幹教諭 ⼩林 弘幸 さん

帯広市立豊成小学校の「実体験を重視した体験学習」

 
 帯広市立豊成小学校は、平成24年度に現在立地する場所へ移転・新設されました。
 学校の西側には日高の湧水を源とする幅2mほどの「機関庫の川」が流れています。
 豊成小学校では、この機関庫の川を学習活動のフィールドとして1年生から6年生までの全学年を対象として河川教育に取り組んでいます。

 

 

はじまりは遠足から

 昔はホタルの住処だった機関庫の川。移転する3年前から遠足や生活科の校外学習のフィールドとして活動が始まりました。移転後は、学校専用のビオトープとも言える機関庫の川を、地域学習の拠点として活用する学習活動へと進化していきました。
 当初は、ホタルの棲める昔の川の姿に戻そうという活動がきっかけでしたが、現在は、児童が自分たちの生活と身近な自然とのつながりを実感し、この恵まれた環境を守ろうとする見方や考え方を育むことを意識した活動を進めています。

 

全学年での学習活動

 1、2年生では、生活科で自然に触れ合うことから始めます。1年生は、「川の生き物に会いに行こう」、2年生は「生き物たんけんに出かけよう」のテーマを設定し、機関庫の川に生息している生き物に触れ合うことで、自然や生き物への興味関心を高めていきます。その際には積極的に関わりたいと思う子どもの気持ちを大切に見守っています。活動の際には多くの地元の高校生がボランティアで子ども達に付き添ってくれています。
 これはキャリア教育の一環で(地元の結びつき、地域の良さを学ばせ、大人になったときに夢を持って生きて行けるようにと始まったもの)、今年は、延べ160名もの高校生が参
加してくれました。そんな高校生の中には、かつて小学校でお兄さんお姉さんに付き添ってもらった子どもたちも、高校生になりボランティアとして戻って来てくれています。
 3年生は環境で「川」、4年生は郷土で「地域のよさ」をテーマに学習します。NPO法人十勝多自然ネットの方々にご協力いただき、外来種であるウチダザリガニの駆除を
行います。NPO等地域の方々の協力も大きな強みです。協力してくれる外部講師の方々は、こちらの教育目標の意図を理解し、それに合う新しい提案をしていただき、年々、学習内容は変化しています。
 4年生は直接川へ行く活動はありませんが、浄水場や下水処理場の施設見学を行い、自分たちの生活と水質の関連について学びます。5年生は「産業」6年生は「生き方」というテーマで活動していました。

 

活動を継続する中で進化する学習内容

 以前は、3年生の活動でウチダザリガニを捕り、外来種のため川には戻せず駆除していました。外来種とはいえ、その命をそのまま廃棄するという行為は、道徳的にどうなのか?と教師の間でも随分議論になり、また子どもたちからも「ザリガニが可哀想だ」という意見もありました。
 活動の方向性について悩んでいた最中、帯広北高校理科教諭の濱先生からザリガニ堆肥としての活用方法を教えていただきました。その後、先生方が中心となって1年間かけて
ザリガニ堆肥を作り、インゲンマメを栽培して堆肥の効果検証も行いました。
 今まで廃棄していたザリガニを6年生がザリガニ堆肥を作ることで命を活かし、自分たちの活動に意味があり、命を無駄にしないという繋がった活動になりました。
 また、一つの活動はホタルを戻そうというコンセプトから始まりましたが、子どもたちの学びから、「この機関庫の川はホタルのすみかとしては綺麗すぎる」ということが分かりその活動は区切りをつけました。
 子どもたちの気付きから授業の内容が変わっていくことは良いこと。今年の冬からサケの稚魚を育てたり、観察したりする活動を始めます。そして来春、自分たちで育てたサケを放流しようと計画しています。地域の方の「機関庫の川にサケが上ってきているのを見たよ!」のひと言に子どもたちの期待は膨らんでいます。

 

繋いでいく豊成小の河川教育

 豊成小学校が機関庫の川の側に移転したのは今から8年前。以前は1.5キロ北の市街地にありましたが、当時の関係者の皆さんから、この素晴らしい環境を是非子どもたちの学び舎として生かせないか?という話が持ち上がり、実現したのです。ここに住む郷土の皆さんが、自分たちの素晴らしい環境を知り尽くし、子どもたちに守り伝えたいとの思いが詰
まった校舎と言えるでしょう。
 豊成小学校の河川教育が引き継がれている大きな要因は、毎年度の教育課程に位置付けられていることが大きいです。学校の歴史なのかもしれませんが、学校・教師の中で「行うことが当たり前」という雰囲気が既にあります。それは子どもたちも同じで「来年になったら○○をするんだ」という意識が芽生えています。
 この間もこんなことがありました。近くの老人施設でガーデンセラピーを行っており、そこから「ザリガニ堆肥を分けてくれませんか?」との申し出がありました。施設の方はう
ちの学校の保護者の方から堆肥の事を聞いたらしいのですが、その保護者のお子さんはこれから堆肥をつくる学年。家庭の中でも「6年生になったらザリガニ堆肥を作るよ」と話さ
れていることが分かるエピソードでした。
 先生方同士しっかりと引き継ぎがなされていることも大きいとは思いますが、個人プレーではなく学校として活動を捉え、形をつくり繋いでいる。まさに学校の文化といえます。

 

河川基金の活用が更なる発展に

 河川基金を知ったのは今から三年前、当時の校長先生と知り合いの北海道教育大学の境先生から勧めてもらいました。河川基金の申請がきっかけで、学校の体験活動やしくみについて整理ができたことは良い機会でした。豊成小学校では「キャリア教育」の一つとして大切にしてきた「川の学習」でした。
 河川教育という視点で整理する時、水という観点で繋いでいき、全学年通した活動が出来上がりました。また境先生のように、河川基金で繋がることが出来た沢山のご縁も、河川基金との出会いで良かったことの一つです。

 
帯広市立豊成小学校の取組み

生命の有限性や自然の大切さなどを実感できるよう体験活動の一層の充実を目指すため、「機関庫の川とサケ」という視点を子どもたちにもってもらおうと、今年度から新たな取組をスタートさせています。その第一歩として、この春、地域の方が冬の間実験的に機関庫の川でふ化させたサケの稚魚を3年生の子どもたちが放流しました。「機関庫の川のステキ」を発見し、子どもたちが主体的に探究していく姿が見られるよう取り組んでいきます。

(写真:豊成小学校の校舎近くを流れる機関庫の川)

(写真
高原 茂雄 Shigeo TAKAHARA

帯広市立豊成小学校 校長北海道帯広市出身
平成31 年4 月より豊成小に着任。専門は社会。颯爽と自転車を漕ぐアクティブな一面も。子どもたちと共に機関庫の川の「ステキ」を追求中。

(写真
小室 素子 Motoko KOMURO

帯広市立豊成小学校 主幹教諭北海道札幌市出身
豊成小では、高学年の担任を経て現在に至る。専門は音楽。子どもたちが楽しく、より深く学ぶことができるような情報を収集中。

(写真
宍戸 文絵 Fumie SHISHIDO

帯広市立豊成小学校 教諭(教務主任)
北海道帯広市出身
豊成小では、中学年の担任を経て現在に至る。専門は国語。子どもたちの学びを支えてくださる方々の力の大きさに感謝をしながら日々邁進中。

(写真
小林 弘幸 Hiroyuki KOBAYASHI

帯広市立緑丘小学校 主幹教諭
京都府京都市出身
平成31 年3 月まで豊成小にて勤務。専門は数学。豊成小の河川教育の整備に尽力。異動先でも熱い若手教師らと共に河川教育を推進中。

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