【河川基金からのお知らせ】

現場の問題解決が研究への原動力- アユ産卵場の形成-

2019/04/15 事例紹介

高知工業高等専門学校(高知県) 准教授 岡田将治 さん

自作水中採水器の試験計測前の準備状況(高知県永瀬ダム)
 
 

河川基金応募の経緯

 高知工業高等専門学校で教え始めて14年経つのですが、河川基金助成はその数年後からいただいています。
 平成17年に母校である高知高専で教えるため高知へ戻った年に、四万十川で大規模な出水があり浸水被害など色々調査をしていました。当時テレビのデータ放送やスマホなどなかった時代で、水位の情報があれば早く避難できたのではないかと考えました。どうにか水位情報を住民の方々に伝えられないかを考え、水位情報をラジオで聞くことのできるシステムを思いつきました。インターネット上の水位データを音声に変え、ミニFМと特定小電力無線を組み合わせた自作の情報配信システムで流しました。被災した地域の住民には大変好評で、それが最初に基金助成をいただいたテーマです。
 河川基金のように地域のテーマで応募できるのは大変ありがたいです。この助成を頂いたおかげで、地域で困っている課題を解決することができました。
 実は、河川基金には当初は何回か落ちました。それでも応募し続けたら、いつからか助成をいただけるようになりました。おかげさまで、基金助成の優秀成果賞も5回いただいています。

 

「アユの産卵場」をサイエンスで解明

 平成18年から四万十川のリバーカウンセラーをしており、流域の学識者会議の中で、どうすれば近年縮小しているアユの瀬を創出できるかという議題が必ずあがっていたので、どうにかできないかと思ったのがきっかけです。
 河川事務所では様々な業務でかなりの予算と労力をかけて、河川のあらゆるデータを取っています。ただ、それぞれのデータが現場の課題の解決に直接結びついていない。結び付けられればもっと色々なことができるのにと常々思っていました。
 また、地形データが少ないのが問題でした。河川事務所では河川の横断面形状は200メートルピッチで測量・管理しているのですが、それですと、瀬がどこにどの程度の大きさで形成されているのかわからない。それを解決したのがドローンです。これまでもレーザープロファイラーで飛行機からデータを取っていましたが、お金もかかるため大きな河川ですら10年に1回程度です。細かい地形データがないと対象とするスケールの流れの計算ができません。ドローンが出てきて、四万十川で使ったらかなり細かい地形データが取れました。そのデータを使い流れの計算を行ったら、アユの産卵場がどういう条件の場所にできやすいかがわかってきました。
 産卵場は河床がやわらかい瀬にできます。ただ今までは専門家の方が、産卵場ができる場所を抽象的な表現で伝えていました。人によっても表現の仕方が違いますし、計算により数値化し、サイエンスとして説明できたらと思いました。それが最初の目標で、数年測っていく中で、産卵場のできる場所が計算上わかるようになってきました。自然の営力を使ってアユの産卵場をどう作ればいいのか、それがわかれば先を見越した河川改修、河川整備ができるなと思いました。

 

研究者を志した経緯


 高専の5年時にコンクリートの研究室に所属し、担当教員の母校である広島大学を紹介され、2年生に編入しました。大学3年生の時、たまたま今の恩師の紹介で、現在の国土技術政策総合研究所河川研究室にインターシップが決まり、つくばで水理実験漬けの夏休みを過ごしました。河川分野で著名な方がたくさんいらした中で過ごした1ヵ月半が楽しくて…。
 

即戦力の人材育成を目指す

 高専の学生にいつも言っていることは、研究室を選ぶとき、専門にとらわれず自分が成長できると思う先生のところに行きなさいと。1年そこら勉強しても全てを理解するのは難しい、だったら自分の能力を伸ばしてくれる先生のところにというのが私の思いです。
 毎年、研究室の配属先を決める説明会では、普通は教員が説明しますが、私は学生にさせています。研究の特徴、指導方針、私たちの研究室が大学等の研究機関、国土交通省や建設コンサルタントと一緒にどんな研究をしているか、その研究がいかに大変でやり甲斐があって自身が成長できるか、やる気があったらうちの研究室に来なさいと説明をさせています。毎年、教室内がざわつくそうです(笑)
 卒業後、多くの学生が国土交通省や建設コンサルタントの河川部門に就職しています。学生時代に現場で鍛えられていますので、新人でも即戦力として頑張ってくれています。

 

今後取り組みたい研究やテーマ

 どこまでできるかわからないですが、とにかく色んな事をやってみたいです。現場の課題解決につながる研究がしたいです。常に研究テーマは10個ぐらいあって、学生には複数のテーマを並行して進めてもらっています。
 今、勉強をしているのは、データ解析です。これから土木や河川の分野でもAIがさらに使われるようになってくるはずです。例えばドローンを飛ばすことによって川の航空写真から草木の種類や流況が判別できるなど、河川の情報量が増えることよって、色々な情報の組合せで研究が深化していくと考えています。
 研究室にはこもらず、定期的に現場(川)に出ています。どこかで洪水があったら、学生と一緒にすぐ観測機器を携えて現場へ行きます。私たちは河川事務所からデータを頂きつつ、現場に出掛けて独自にデータを取っていますので、ほかとは違った研究ができます。常に現場を見ながら、問題意識を養い、そこで困っている人がなぜ困っているのか考えていると、また次の研究テーマが見えてきますし、学生のモチベーションを高めることもできます。
 その土地や地域で何かしら問題は必ずあるので、それを解決できることに地方の大学や高専の価値がある。技術がないところで困っている方はたくさんいます。安く提供できる技術で、地域の課題解決に協力するということは大学ではなかなかできません。高専の研究者としてそういうことをきちんとやりなさいと恩師からもよく言われていて、それをいつも心がけています。

 

災害に対する意識の変化

 先日も四万十市の高校で災害に関する講演をする機会があり、数年前だと南海地震、津波の話をしてくださいという依頼が多かったのが、最近は豪雨水害の話をしてくださいという風に変わってきました。
 高校生の関心も地震だけでなく、より身近な水害に変化していると感じます。今後は、高専生が地元の高校生と一緒に水害リスクを教える地域住民向けワークショップを行って、生徒会活動などで各地域において継続的に受継がれる仕組み作りも進めていきたいです。

 

今後の河川基金へ

 若手の研究者には自分のアイデアを形にして、発展をさせていくようなときに助成を受けてもらいたいです。特に地方の研究者は予算が本当にないですからね。助成をいただくとやらなければならない状況にもなるし、河川管理者や関連関係者との連携も必須なので、お付き合いの幅も広がっていくのがいいと思います。








 
高知工業高等専門学校 准教授 岡田将治先生の取組み

 国土交通省四国地方整備局のリバーカウンセラー(仁淀川、物部川、四万十川)を務め、水害の専門家としても活躍。今年度助成では「高知県四万十市を対象とした平成30 年西日本豪雨災害時 における住民の防災情報の理解と活用に関する調査および災害リスクコミュニケーションの実践」ということで、西日本豪雨災害の教訓を活かした取組を行う。
 岡田研究室の椅子に背もたれなんてありません。会議は立って、すみやかに、これが岡田研究室のスタイル。

岡田 将治 Shoji OKADA

高知工業高等専門学校 ソーシャルデザイン工学科 准教授

【学歴】
1989 年4 月 – 1994 年3 月 高知工業高等専門学校 土木工学科
1994 年4 月 – 1997 年3 月 広島大学 工学部 第四類(建設系)
1997 年4 月 – 2002 年3 月 広島大学大学院 工学研究科博士課程 環境工学専攻

【経歴】
2002 年4 月 – 2003 年3 月 広島大学大学院 工学研究科 助手
2003 年4 月 – 2005 年3 月 中央大学 理工学部土木工学科 助手
2005 年4 月- 2009 年3 月  高知工業高等専門学校 建設システム工学科 助教授
2009 年4 月- 2016 年3 月  高知工業高等専門学校 環境都市デザイン工学科 助教授

現在
高知工業高等専門学校 ソーシャルデザイン工学科 准教授
高知大学 防災推進センター 客員准教授
中央大学 研究開発機構 客員研究員

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