【河川基金からのお知らせ】
大河津分水を人々へ広める - 川に親しむ、川や地域に関心を持つ-
2019/04/15
Lоve River Net(新潟県) 代表 樋口 勲 さん
大河津分水を人々へ広める
大河津分水を主な活動拠点としているLоve River Netは、2014年に設立されました。そのきっかけは、Lоve River Netの代表である樋口勲さんが信濃川大河津資料館に勤務し、大河津分水の歴史や仕組みに触れたことから始まりました。
ある時、新潟駅前で街頭インタビューをした際、大河津分水の名前は知っているが、どこにあり、どんな役割があるか等、その中身を知らない方が非常に多いことに危機感を抱きました。大河津分水は、歴史もあり先駆者の苦労により作られた郷土の宝もの。新潟の発展の礎を築いたといっても過言ではない程です。その恩恵も非常に大きく、現在の私たちの生活も支えてくれています。それを是非多くの人々へ伝えたいと思いましたが、当時、一般市民が参加しやすい活動をしているところは見当たりませんでした。それなら自分たちで一から始め、新たな取り組みをチャレンジしようと立ち上がりました。
越後平野に住む人々は度重なる洪水被害に苦しんでいました。人々は江戸幕府へ分水工事を請願しましたが、工事の規模や予算から許可されることはありませんでした。明治時代になると大河津分水の建設工事が始まりましたが、人力での掘削作業では十分な川幅が確保できず、工事は中止されてしまいました。その矢先に越後平野を壊滅させた横田切れという大水害が発生。再び大河津分水の必要性が提唱され、大正時代にはドイツやイギリスから輸入した大型機械を駆使し、延1000万人といわれる人々が従事し、ついに1922年に通水しました。その後も堰が陥没するなどの危機を青山士や宮本武之輔といった日本を代表する土木技術者の活躍で乗り越えて、今日の大河津分水があります。
大河津分水は、信濃川の水を分ける人工の川で、洗堰と可動堰の2つの堰を操作することで、洪水は大河津分水から日本海へ流し、下流域が必要な水だけを信濃川へ流して、越後平野を水害から守るとともに、越後平野を潤す役割を担っています。
大河津分水の恩恵は計り知れず、水害が激減し、米の収穫量は三倍となり「米どころ新潟」が誕生したばかりか、かつての水害常襲地帯には上越新幹線や北陸自動車道が縦貫し、世界有数の洋食器の産地が形成されています。
現在の大河津分水は国定公園の一部にもなっており、水辺の公園、資料館などのスポットも充実しています。ここを活動場所と出来ることはとても恵まれていると思います。
私たちLоve River Netの活動のねらいは、川に親しむ、川や地域に関心を持つ、そして大河津分水を知ってもらうこと。様々な活動を通じて、大河津分水を発信してくれるファンを大勢つくりたいという思いで活動を続けています。
大河津分水も2022年には通水100年を迎えます。現在、通水100年を地域の様々な人々と祝うべく、学校教育と連携した分水サミットの開催や、地域行政と連携したインフラツーリズムの開催を目指しています。
主な活動
Lоve River Netの主な活動をご紹介します。
ミズベ遊びミズベBBQ
気軽に水辺に親しんでほしいという思いから、水辺でのバーベキューを企画し、火起こし体験や巻き割り体験をはじめ、ペットボトルロケット飛ばしや星空観察会を開催しました。初めて大河津分水へ足を運んでくださった方々が参加者の25%もおられ、良いきっかけ作りになりました。BBQでは地元燕市から紹介された地元のアウトドア企業から協力して頂けたのも成功した要因の一つだと思っています。
大河津分水サンクスフェスタ
今年で5回目を数えるこのイベントはLоve River Netとつばめ若者会議が一緒に企画・運営する大河津分水感謝イベントです。新潟では知らない人はいないというラジオパーソナリティーの遠藤麻理さんとさとちんさんが出演する「みずべトークライブ」のほか、竹水鉄砲、凧づくり、水辺の生き物探検隊、Eボートでの水上大河津分水観察会等、水に親しむ盛りだくさんのイベントを開催しています。400人を超える来場者のほとんどがリピーターで地域のイベントして定着してきました。
ラブリバーウィーク
2週間限定の大河津分水カフェをはじめ、大河津分水が描かれた特性クッキーの試食、ミッションをクリアしながら進むウォーキング等を実施。一昨年はのべ391名の参加者にお越しいただきました。
つばめ若者会議
同じ志を持つ仲間を増やしたいと感じていたときに、燕市のつばめ若者会議へ誘っていただきました。つばめ若者会議では、燕市を楽しくしたいと思い、まちのために必要なこと、大切なことを創造し、主体的に動こうという気持ちを持った若者が集まり活動しています。燕市への思いがあれば、あまり若くなくても、市外在住でも参加できます。若者会議では幾つかのプロジェクトがあり、Lоve River Netの大きな活動の柱である「大河津分水サンクスフェスタ」開催にも協力いただいています。
このつばめ若者会議には実に様々な方が参加しています。情報交流は勿論、それぞれの強みを活かしながら、若者でもまちづくりに携われるこの制度は素晴らしいと感じました。
Lоve River Netの何人かのメンバーも、このつばめ若者会議が縁で仲間となりました。
株式会社エコロジーサイエンスのサポート
Lоve River Netを立ち上げる以前、縁あって信濃川大河津資料館勤務から、中越地震の教訓を伝えるために作られた「きおくみらい(正式名称は長岡震災アーカイブセンター)」に勤務していました。震災の教訓を伝えることは大切で興味深いものだったのですが、どうしても川が恋しくなり、将来を考えていたところ、株式会社エコロジーサイエンスの大谷内社長からオファーを受けたのです。大谷内社長は覚えていないかもしれませんが、「私は大河津分水に携わる活動をしたいので、それを続けてもよいなら行きます」とお伝えしました。
転職した頃の仕事は環境調査がメインでしたが、徐々に大河津分水に関連する業務が増え、知れば知るほど大河津分水の魅力を人々へ発信したいという思いが強くなりました。
【Lоve River Netを現在もサポートしているのが株式会社エコロジーサイエンスです。会社の仕事の傍ら、様々な活動を精力的に行える恵まれた環境にあることでLоve River Netが素晴らしい活動を展開し続けている理由が見えてきました。
その活動は今年の川づくり団体全国事例発表会でも高く評価され、優秀成果賞を受賞しています
Lоve River Netの支援を続ける大谷内さんにその理由を伺ってみました。
「私たちが今まで行っている生物関係の調査もLоve River Netの活動も関連性があります。地域のお子さんたち、お父さん、お母さんにも参加していただいて、共に川に親しんでいくことを大切にしてきました。地域のために役立てていることが一番ですが、不思議と業務へも繋がっていると感じています。」
聞けばLоve River Netの支援の外にも日本に来た留学生のサポートも進んで行われておられるとか。地元を良くしようと活動しているLоve River Netを支援し、地域貢献している企業という、まさに理想の形がここにはありました。】
今後の活動
当面の目標は2022年に迎える通水100年に多くの方々から大河津分水を祝っていただくことです。先人たちの思いを繋ぎ、この宝物をどう後世へ引き継いでいけるのかを考えなければと思っています。そこで、大河津分水への関心と理解を深めてもらうためのインフラツーリズムの実施やその定着に着手し始めたところです。また、未来の担い手である子どもたちに大河津分水を学習してもらい、ゆくゆくは全国の放水路・分水路を学習する小学生同士の意見交換を行う「子ども分水サミット」の実現を目指しています。このような活動の展開には地域の協働が不可欠で、様々な地域団体の方々との意見交換会も企画しています。今まで以上につばめ若者会議のメンバーや大河津分水の管理者である信濃川河川事務所の皆様と連携しながら活動を展開していきます。
Love River Net における取り組み
大河津分水や信濃川などの川を通じて、人々が川に親しむ機会を提供するとともに、川が作り上げた郷土の素晴らしさや大切さに気付く事業を展開し、もって、次代を担う人材を育成することを目的とし、活動を展開しています。
活動自体は、楽しく、緩く、長く、がモットーなので、アイデアが生まれれば基本的に実行し、イベントだけでなく、Love River カレンダー、堰クッキー、大河津分水タオル、洗堰・可動堰パズル、横田切れカレーなどの関連グッズ等を実現してきました。今後は、子ども達や地域の方々が大河津分水を通じた活動を展開してくれるようサポート役も目指しています。
(写真:青山士の言葉が刻まれた石碑でミッションにチャレンジ)
(写真右)
大谷内忠夫 Tadao OOYACHI
株式会社エコロジーサイエンス
(写真左)
樋口 勲 Isao HIGUCHI
Love River Net 代表
新潟県十日町市出身。
大学卒業後建設コンサルタント会社入社。
平成13年11月 信濃川大河津資料館勤務。
平成23年4月より長岡震災アーカイブセンターきおくみらい勤務。
平成24年11月より建設コンサルタント会社
勤務。
平成26 年11 月にLove River Net 立ち上げ。信濃川大河津資料館勤務時代に川の素晴らしさに気づかされる。
以後、任意団体Love River Net の活動等を通じて、水辺の生きもの観察会や川下り、川でものづくり、水辺コンサートなど、水辺イベントを多数企画。川巡りツアー、川の講演会、防災講座など講師多数。好きな言葉は「万象に天意を覚る者は幸いなり」。