【河川基金からのお知らせ】
ヒダサンショウウオを守る、ジュニア研究者の活躍
2018/05/28
山県市立高富中学校 生物部 部長 三宅 遥香 さん 顧問 福田 英治 さん
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世界初!産卵行動の撮影に成功
専門家も称賛!世界初の産卵行動の撮影に成功
昨年、河川基金研究成果発表会研究者・研究機関部門ジュニア研究者の中から優秀成果賞を受賞したのは岐阜県山県市にある高富中学校生物部。
河川基金事業名は「守れ!ふるさとのヒダサンショウウオ」。
この研究は、地元の鳥羽川上流に生息する準絶滅危惧種のヒダサンショウウオの生態を解明する活動です。渓流に生息するヒダサンショウウオの生態をはじめ産卵行動についても、これまで専門家の中でも未知の領域となっていました。
高富中学校生物部は、創部当初からヒダサンショウウオの生態研究に取組み、わずか5年で日本学生科学賞「文部科学大臣賞」、日本生態学会札幌大会高校生ポスター部門「最優秀賞」、全国野生生物保護実績発表大会「文部科学大臣賞」など数々の賞を受賞。大活躍までの軌跡を追ってみました。
ヒダサンショウウオとの出会い
活動拠点である理科室を訪問すると生物部顧問の福田英治先生と部長の三宅遥香さん(3年生)が迎えてくれました。奥には中古の冷蔵庫を再利用するなど、お手製のヒダサンショウウオの飼育施設があり、部屋や廊下の壁にはびっしりと観察・調査した草花や生物が整理されポスターにまとめて張り出されていました。
平成26年、地元の自然を調べてみたいとの思いから生物部を創設し活動を開始しました。将来、誰かがこの地を調査した時に私たちのデータと比較出来ればいいなというのも私の夢でした。創部当初は部員33名(男子:8名、女子:25名)と多くの生徒が集まりました。
活動は毎朝と火曜日から金曜日の放課後です。土日は野外活動を行い、花、魚、水生生物、微生物、昆虫の写真班と、捕獲班等いくつもの班に分かれて活動しました。
胴長を着た数十人の中学生が川で調査する光景は、地元ではちょっとした話題にもなりました。昔、鳥羽川の上流は地域の貴重な水源地となっていたために、年に一度砂出し(清掃)を行っていました。ある日、川へ行くと年配の方から「上流に足の生えた魚がおるからいってみやー」と言われ、上流へ行くとそれはヒダサンショウウオの幼生でした。
ヒダサンショウウオは岐阜県で発見された日本固有種のサンショウウオです。人里離れた源流部の渓流に生息しているため、観測も難しく当時は研究もほとんど進んでいませんでした。
そこで高富中学校生物部では、当初から謎が多いとされていたヒダサンショウウオの生態や産卵行動の解明をしようとの目標を掲げ、研究を始めることにしました。
産卵時、流れの強い所を避け石の下などで産卵するため、観察は非常に難しく詳しいことはわかっていませんでした。
ヒダサンショウウオの飼育に挑戦
生息地が渓流のため撮影は危険も伴い非常に難しい。そこで、飼育して撮影に挑むことにしました。しかし、飼育には常に低温水の流れが必要。生餌しか食べないことも飼育を難しいものにしていました。
理科室に流水を作り、砂利とレンガを入れて産卵水槽を作り赤外線カメラを導入して撮影にも試みましたが最初は失敗に終わりました。
産卵行動の映像を撮るにはヒダサンショウウオの生態をもっと知る必要がある…そう思い知らされ、本腰を入れて調査を開始しました。三年間毎週土曜日は山に入り、幼生や成体、卵のう、越冬幼生について徹底的に調べました。生態調査と同時に産卵水槽開発も日々試行錯誤しました。
野外活動場所は長靴を履いて渓流を登る等、岩から滑って落ちる等の危険が伴います。怪我なく無事に活動出来るよう、安全管理には特に配慮しました。
春から秋にかけてはヤマビルに血を吸われながらの活動。冬の時期は雪の中、水の冷たさとの戦いで大変でした。研究を重ねながら河川基金より得た資金で産卵水槽の開発とビデオを購入し、研究を開始してから4年目、ついに世界初の産卵行動の撮影に成功しました。
活動を続ける秘訣
部活動にはアクティブ・ラーニングを取り入れながら、仲間と協力し自主的に活動できるように工夫しました。
一つ目は野外活動を中心に進め、野外調査が好きな生徒を育てることを心がけました。年間80回を超える野外調査を4年間続けてきましたが、生徒は中学1年生から3年生の夏休みの間に200回を超える野外調査を行うことになります。これは山に入ることが好きな生徒しか続かない活動です。
二つ目は外部の大学や水族館等の関係機関を訪ね、学びの場を作ることでしょうか。岐阜大学をはじめ世界淡水魚園水族館アクア・トトぎふ、岐阜高校自然科学部生物班など多くの皆様のご協力の元、訪問学習を続けることができました。生徒たちも毎回、訪問をとても楽しみにしていました。
生徒を成長させた学会参加
昨年の夏休み8月24日、ミカワサンショウウオと名付けられた新種が発表されました。発表したのは日本爬虫両棲類学会でご指導してくださった京都大学名誉教授 松井正文先生と見澤康充先生でした。先生方との出会いは3年前の学会の場。松井先生は私たちの発表を途中で止め、厳しいコメントをくださいました。たとえ中学生であっても一研究者としての扱いをされたといった感じでした。先生からの指摘についてどう説明するのか、どのようにプレゼンすれば相手に伝わるのか、生徒たちは毎回、学会で貴重な経験を積んでいきました。
普段の活動も多くの方々から支えられました。顧問の私の専門は「化学」。希少生物ヒダサンショウウオの研究を進めるにあたり岐阜高校の高木先生や岐阜大学の先生方など、実に多くの皆様からご指導を賜りました。見澤先生は岐阜までいらして指導くださることもありました。時には生徒と山へ入り、研究活動を共にしてくださることもありました。そんな恵まれた環境で、子どもたちは大きく成長していきました。
この場をお借りし、ジュニア研究者たちを指導してくださった多くの皆様へ心より深く感謝申し上げたいと思います。
この春、この生物部は顧問の福田先生の退職により廃部となりました。しかし生物部を巣立った三宅さんをはじめ多くの卒業生たちが各学校で研究を引き継いでいます。
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生物部活動新聞
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ヒダサンショウウオの卵のう
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高富中学校生物部 活動の成果
2018.3.17 第65回日本生態学会札幌大会高校生ポスター部門「最優秀賞」受賞
2017.12.24 第61回日本学生科学賞「文部科学大臣賞」受賞
2017.9.23 日本動物学会第88回富山大会高校生ポスター部門「優秀賞」受賞
2017.7.27 平成29年度河川基金研究成果発表会「優秀成果賞」
2017.3.18 環境省こどもホタレンジャー2016「審査員特別賞」
2017.3.18 第64回日本生態学会東京大会高校生ポスター部門「優秀賞」受賞
2016.11.24 第51回全国野生生物保護実績発表大会「文部科学大臣賞」受賞
2015.3.29 こどもエコクラブ全国フェスティバル2015「エコクラブ大賞」受賞
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(写真左)
三宅 遥香 Haruka MIYAKE
山県市立高富中学校 生物部 部長
(写真右)
福田 英治 Eiji FUKUTA
山県市立高富中学校 生物部 顧問(教諭)
環境カウンセラー、自然観察指導員
山県市環境審議委員、岐阜市自然環境アドバイザー
1987年4月~1990年3月 文部省(現:文部科学省)在外教育施設派遣教員として、ブラジル国ベロ・オリゾンテ日本人学校へ赴任、3年間でジャングルに200回以上通い、約2000頭のチョウを集める。
また、岐阜県環境教育研究会の主務者を務めながら体験型環境学習に取り組み、財団法人 河川環境管理財団(現:公益法人 河川財団)が企画・編集した「川を活かした体験学習プログラム(東京書籍)」にも執筆している。