【河川基金からのお知らせ】

地域コーディネーターと歩む 郷土愛を育む学習

いの町立伊野南小学校(高知県)

「いの町立伊野南小学校」では学校の先生と共に地域コーディネーターが子どもたちの学習をサポートしています。伊野南小学校担当の辰巳有里さんは、地域の他の学校との連携を行いながら、学校とあらゆる方々との橋渡し役や先生方の学習サポート役も務めます。その役割は多岐にわたり、今では子どもの学習にはなくてはならない存在だと瀨戸校長先生も断言するほど。今回は伊野南小学校の先生方と地域コーディネーターさんが連携して進める河川教育について詳しくお話を伺ってみました。

「いの町立伊野南小学校」のほとんどの児童は、学校前を流れる奥田川に架かる橋を渡って登校してきます。子どもたちにとって身近な存在である奥田川は、全国的にも希少な植物ベニオグラコウホネの黄色い花が咲く、大変貴重な河川環境です。
「いの町立伊野南小学校」ではこの奥田川を学習題材として、様々な体験学習を取り入れ深い学びを広げています。

学びのフィールド

 平成25年に奥田川沿いに奥田川親水公園が整備されました。親水公園の中には園芸公園や花公園があり、小中学生と地元の方が一緒に活動できる学びのフィールドとなっています。その公園が整備された2年後に奥田川親水公園の会が立ち上がり、地域と学校が一体となって子どもたちが安全に学べる環境を維持・管理する仕組みが出来上がりました。
 また、奥田川親水公園の会が立ち上がった頃、大規模な河川工事も決まったのですが、工事に先立ちこの奥田川をどのようにしたいのか、地域と学校とで協議する場がもたれました。中州を作り飛び石を置くなど学校の意見も反映され、有志企業さんからは桜の苗木を提供いただき、今では地域の人々や子どもたちが楽しめる水辺になっています。現在も学校運営協議会の中に、「奥田川親水公園の会」は位置付けられており、メンバーの高齢化が進む中当時の人々の想いや流れをどう次の世代に伝え守っていくかが大きな課題となっています。

伊野南小学校の「総合的な学習の時間」では

 小学校では、3年生以上から総合的な学習の時間が設けられています。当校では3年社会科で「地域」について学び、4年総合でそれを発展させる形で「奥田川」について学習しています。
 奥田川では、なぜ希少な植物ベニオグラコウホネが育つのか?子ども自身が疑問をもち解決するための道筋を計画的に考えていくことや、学習活動から地域の人が奥田川を大切に思う気持ちを知り、そして子どもたちにも芽生えた地域を大切にしたいという心情も育んでいければいいなと思っています。
 河川教育で難しいなと感じるのは、他の学習とは違い、なかなか調べる資料がないことです。特に希少植物について調べようと思っても、図鑑で詳しく紹介されているものでもありません。そのことについて詳しい方々がたまたま地域にいらしたのでお話を聞くことができましたが、インターネットや図鑑で調べるのが難しい場合はどうすればいいのか?など取り組み始めた頃は、その対応方法も分からず、その結果教師主導になってしまった部分はあったかと思います。
 まずは、子どもたちが知っていることや知らないことを聞くことから始め、子どもたち自身が学びを組み立てた方が、より〝川を守らなければいけない〟とか〝こんなに素敵な川なんだ〟ということに気づきやすいと感じました。
 疑問に思ったことは自分たちで調べたり、聞いたり、電話したりする方が子どもの身になる。同時に地域を愛する感情も育まれると考え、できるだけ子どもたち自ら考えて工夫していくように計画しました。そして担任も基礎的な知識・情報は常に持っていなければなりません。辰巳さんのような地域コーディネーターさんに奥田川のことを聞き、事前に専門機関の方々と連携を行うなど、子どもたちの要求がいつでも実行できるように下準備のようなものは整えるようにしています。

他教科との連携

 学習を進めていくと、子どもたちからは様々な疑問が出され、総合的な学習だけでは限界を感じることが多々あります。そんな時は、他の教科と連動させることが有効になります。例えば、国語の教科書にはインタビューの方法が載っています。奥田川についてのインタビューを行う前に、それを学んでから話を聞こうとか、聞いた話をカテゴリーに分けてから伝える教材があるから、そこでの学びを活かそう、といった具合に他教科との連携を図るなどします。他の教科と連動させることで、より学びも深まっていきます。
 奥田川についてのインタビューを行うときは、子どもたち自身で電話してアポを取りますが、授業では事前に電話のかけ方を学んでおきます。当日、子どもたちはドキドキしながら電話をするわけですが、この体験学習も実はコーディネーターさんがどこに聞けばいいのか予め調べておき、先生が先回りして依頼を行うなど、子どもたちのサポートを陰で行っています。
 ある年の4年生では、1学期には班で分担して1枚の新聞を仕上げるという単元があり、『奥田川新聞』を作成しました。奥田川にはベニオグラコウホネとナガエミクリという希少植物が生息していますが、〝希少植物を守るためには?〟を見出しにして、子どもたちは地域の人に伝えたいという思いをあれこれイメージし、徐々に形にしていきます。困っても、人に聞いたり、誰かに熱意を伝えたりすれば何とかなる!そういう経験の積み重ねをしていくことで、確実に子どもたちは成長していきます。こうして学んだ子どもたちの成果物の展示場所や発表の場の調整もコーディネーターの辰巳さんが行い、地域の方への橋渡しもしてくれています。
 今年の総合学習では、〝総合から他教科へ〟というよりは〝他教科から総合〟に持ってくるやり方で授業づくりをしようと考えています。ちょうど今日の午前中に行った授業ですが、国語で『リーフレット作り』という単元があり、この学習を、総合での奥田川での学びに活かしてリーフレットを作成してみよう!といった感じです。こうした他教科での学びを、総合学習のまとめの部分でも活かしていければと考えています。

地域との連携活動を知らせる広報紙

地道な活動から郷土愛が生まれる

 奥田川での学びにおいては、地域の方々が日頃から親身になって関わってくださることも重要です。実は見えないところでも色々協力いただいているということが、4・5・6年生ぐらいになってくるとちょっとずつ見えてきて、〝地域の人はありがたいな〟という気持ちも同時に育ってくるのです。そういう感謝の気持ちを子どもたちが「発表」という形で発信することで、地域の方々も協力して良かったなと思ってくれるのではないでしょうか。そのような交流を大切にしていければ、地域を大事にする子どもがいっぱい育つだろうなと、この子たちを見ていて思います。同時に地域の方々も、「みんなで子育てしていこう!」という空気感を持ってくださっていることも非常にありがたいなと感じています。
 今の社会状況の中で、20代~50代の現役子育て世代は、経済的にも時間と心の余裕という意味からも、奉仕的な地域活動に参加するのは難しい現状があります。だから必然的にボランティアで活動を下支えしてくれるのは、その上のおじいちゃん・おばあちゃん世代が中心です。奥田川親水公園の会が発足して約10年が経ち、会のメンバーも高齢化が進んでいます。地域を愛し、守り続けてきた思いや活動を、次は誰にバトンパスできるのか? 本来なら、ひとつ下の世代(現役の子育て世代)が受け手であることが理想ですが、それが叶わない現実に、もどかしさが募ります。

奥田川の水を汲み入れた田んぼでは農業体験も

想いをつなぐ学習

 これは河川学習に限らないことですが、地域と繋がりながら、自然の中で様々な体験活動をすることで、子どもたちがどんどん成長しているなと実感することができます。また3・4年生で学んだ地域や川のことが、上級生になるにつれて、環境や社会を考える学習に役立っています。学びの中で郷土の良さを実感することは、とても大切だと感じています。その学びの教育的効果がいつどこで表れるのかと問われれば、すぐには答えられませんが、この学びはかなり長いスパンで考えないといけないことだとも思っています。そういう視点を持ちつつ、これからも子どもたちと関わり続けていければと思っています。
 先ほど、地域を愛し守り続けてきた思いや活動を、次の世代へ繋ぐのがとても難しいというお話をしましたが、次のバトンの受け手として積極的に繋ごうとしているのが、大学生を筆頭に、高校生・中学生といった若い人たちです。特に今の大学生は、東日本大震災やコロナ禍にも直面してきた世代で、地域や誰かと繋がりながら助け合って生きていくことが大切だということを肌身で感じ取っているからです。その一方で、子どもたちの学びや成長を一番近くで共感できる保護者のみなさんにもできるだけ積極的に参加していただきたい。その為には、周知や広報活動にも工夫を凝らしながら、今まで以上に魅力ある地域づくりの発信を心がけていかなければと思っています。(辰巳さん)

プロフィール

いの町立伊野南小学校

教頭 槇村理恵さん

4年担任 細木壮一郎さん

5年担任 松井 綾さん

地域コーディネーター 辰巳有里さん

校長 瀬戸保彦さん

(写真左から)


高知県吾川郡にあるいの町立伊野南小学校は、現在の児童数は164名(令和4年4月)。コミュニティ・スクールの運営など、地域の協力も得ながら、児童の安心・安全な学校づくりとともに、よりよい教育ができる環境づくりや授業づくりを目指す。

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