【河川基金からのお知らせ】

地域の宝である、十二潟の自然を次世代に引き継ぐ

NPO法人いいろこ十二潟を守る会(新潟県)
絶滅危惧種のアサザ(左)とガガブタ(右)

 不法投棄などにより荒廃していく新潟市・十二潟の貴重の自然を守り、十二潟固有の貴重な植物であり県の絶滅危惧種に指定されているアサザ、ガガブタを、地域住民の力で保護していくために立ち上げられた「NPO法人いいろこ十二潟を守る会」。活動を通して住民の自然保護意識の高揚に寄与することを目指す会の活動について、理事長の山崎敬雄さんと役員の皆さんにお話を伺いました。

NPO法人 立ち上げのきっかけ

 私たちが活動している十二潟は、現在は新潟市ですが、合併前は豊栄市という人口5万人ほどの市でした。当時の市長の考えで、小さな市が大きな市と合併するというのはやはり大変ですから、地域の意見を吸い上げるような組織が必要ではないかということで、平成13年にできたコミュニティが母体となっています。この話し合いの中で今いちばん地域の課題になっているのは何かということで上がったのが、不法投棄などによる十二潟の荒廃でした。それで毎年春先には十二潟の一斉清掃を行うようになったのです。
 平成19年頃だと思うのですが、十二潟の生態調査が行われました。すると絶滅危惧種であるアサザやガガブタといった植物や魚類もかなり生息していることが分かりました。それで何とか保全ができないかという話が当時から出ていたのですが、この地域は個人の所有地で、12~13人の地権者がおられました。それで土地活用のためにだんだん埋め立てられていってしまったんですね。埋め立てた土地は田んぼになったり、建設会社の資材置き場になったり…。しかしある方の所有地が無傷で残っており、平成24年頃からその場所を地元の小学校の観察学習に使わせていただくことになりました。子どもたちと一緒に、アサザ、ガガブタの葉が出始めた頃の6月と、花が咲いている8月の末から9月頃に、毎年生態調査を行っていました。最初のうちは場所をお借りするという形でしたが、何年か続けているうちに、「皆さんが活動して残してくれるなら譲ってもいいですよ」と言っていただけたのです。コミュニティでは資産が持てないので、NPO法人を立ち上げて寄付を募ったり、ナショナル・トラスト協会という保全活動を支援している財団に補助金をいただいたりして、土地を譲っていただけたという経緯があります。その当時のコミュニティ活動のメンバーの方々に役員になっていただき、今の形で再スタートを切ることになりました。
 法人の名前にもなっている「いいろこ」というのは、このあたりの方言で「いいところ」という意味なんです。越後平野のような平野を流れる河川は、あちこち流路を変えるのが特徴ですが、阿賀野川の蛇行が進行し、河道が切断され短絡化したことによって生まれた三日月湖と呼ばれる旧流路のひとつが十二潟というわけです。先ほど絶滅危惧種のアサザの話をしましたが、私たちが小さい頃には、生息しておらず、当時はハスがたくさんありました。というのも、アサザやガガブタというものは、水深が1.5メートル以上あると育たないのだそうです。田んぼからの土の流入だとか、そういう環境の変化によって生態系が変化してきたということなのでしょうね。

子どもたちの環境活動

 私たちの活動は、基本的には近隣の岡方第一小学校の子どもたちの環境活動に力を入れています。最初は先ほどもお話した通り、アサザとガガブタの生態調査を行っていたのですが、ここ数年は生物調査も行っています。ミシシッピアカミミガメなどの外来種も見られるようになり、きちんと調査しようというのが目的ですが、やはり生き物の調査の方が子どもたちの目の輝きが違うのですね (笑)。今の子どもたちは、私たちの頃と違って魚を捕まえて遊ぶような機会が少ないですから、オタマジャクシやウシガエルを捕まえては大騒ぎしていますよ。現在は1~6年生まで、それぞれの学習内容に合わせた活動に学校もすごく力を入れて、ここ(コミュニティセンター)で発表会なども行っていましたね。現在は新型コロナウィルス感染症の影響により、どうしても人数が制限されるので、小規模な写真展示を行うぐらいしかできなくなっていますが。

保全活動の課題

 もうひとつの柱である十二潟の保全活動ですが、活動を始めた頃はチクゴスズメノヒエといった、マット状に広がる外来種が繁殖していました。それを駆除して、収まったのかなと思ったら今度は潟の方に外来種が…というようなことがありまして。今はヒシという一年草が大繁殖しているような状況です。ひとつの勢力が弱まると、また別の勢力が元気になる。それは仕方のないことでもあると思いますが、いたちごっこになっています。それでも潟の深い部分はそういう植物は出てきません。根本的に解決するためには、将来的には土地開発などの問題も出てくるのかなと思っています。
 また、かつての十二潟は地下水が湧き出ていましたが、最近はかなり地下水が下がっています。私たちの子どもの頃はこの潟で泳いでいたぐらいですから、そういったことも水質悪化の原因にもなっているのかなと感じます。もしかしたら温暖化の影響で雪があまり降らないことも関係しているかもしれません。

岡方第一小学校の児童が作成したパネル

蒔いた種が芽吹く

 今でもやはり、活動に対して理解していただけず不法投棄を続ける人もいます。その一方、続けてきて良かったと思う出来事もたくさんあります。先日も敬和学園大学の学生が、十二潟について話を聞かせてほしいと訪ねて来ました。その学生は、岡方第一小学校の卒業生で、大学生になりもう一度十二潟について学びたいと言って訪ねて来てくれたのです。こういう風に、年数を経て大きくなった子どもたちが「やっぱり十二潟っていいところだな」と感じてくれることは、本当に続けている意義があったなと実感させてくれ、とてもうれしいものです。今まで蒔いてきた種は無駄ではなかったのだと。やはり活動の原動力は、次世代にこの自然を受け渡せるように守っていきたいという想いなのだと再確認しています。

「ヒシ」の上部:葉柄にはふくらみがあり水面に浮いている
駆除対象となる外来種の「ヒシ」

少子高齢化への取組み

 今まで通りの活動を続けていこうというのはもちろんなのですが、毎年同じことをしていても子どもたちが食いつかないということもあり(笑)、少しずつ工夫をしていくことも必要だと考え、今後もやっていきたいと思います。その一環として十二潟の農地側の方にも遊歩道を広げていこうとしています。葦だとかの植物や、魚、鳥などの生物も結構生息しており、観測環境を整えていければと思っています。もちろん予算との絡みもあるのでどうすれば実現可能かは協議が必要ですが、今年の秋、稲刈りが終わる頃には境界や地権者の皆さんとの確認を進めて、野鳥観察ができる場所が作れたらと思います。
 そして、ここのような地方の活動は、やはり少子高齢化が非常に大きな課題です。コアメンバーもどんどん高齢になっていきますから、この活動をどう次世代に渡すのか、どう人材を育てていくかということが、今後の活動においては非常に重要です。子どもたちには、楽しんでもらいつつ、成長した時に参加したいと思ってもらえるような活動にできればと思います。

プロフィール

NPO法人いいろこ十二潟を守る会

副理事長
儀同義孝さん

理事長
山崎敬雄さん

副理事長
倉島京子さん

運営委員
鈴木松男さん

事務局長
坂井淳彦さん

(写真左から)


2001年(平成13年)に、旧豊栄市で住民自治の組織として岡方地区コミュニティ委員会が立ち上げられ、十二潟の環境保全の検討を始める。2012年(平成24年)からは、地元の岡方第一小学校の総合学習の時間を利用し、岡方地区コミュニティ委員会とともに潟の歴史や水質調査、生態調査、外来種(チクゴスズメノヒエ)の駆除などを行い、潟の環境保全に努めている。2017年(平成29年)NPO法人「いいろこ十二潟を守る会」となる。

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