【河川基金からのお知らせ】

子どもも市政や地域を動かせるその意識を主体的な学びの原動力に

八王子市立七国小学校(東京都)

八王子市立七国小学校では、昨2022 年度の春の募集で河川基金助成の「河川
教育とりくみ支援」の採択を受け、総合的な学習の時間に「川の学習」として河
川教育を行いました。引き続き今年度は河川基金の「単学年」区分に応募し、「川
の学習」に活用しています。「持続可能な社会を創る児童の育成」を掲げる七国
小の総合的な学習の時間で進められている河川教育についてお話を伺いました。

持続可能な社会を創る児童の育成と探究的な学びの実現

七国小では昨年度から「持続可能な社会を創る児童の育成」を研究主題に探究的な学びを進めてきました。子どもが自ら問題意識をもって、主体的に、対話的に問題解決に取り組むことができる児童の育を、探究的な学びの実現につなげて子どもたちを育てていく。

そうして持続可能な社会の創り手を育てる、という考えです。子どもたちはまず身近な生活、そこから学校、地域(七国→八王子市→日本→世界)と社会とのつながりに視野を広げていきます。

さらに、地球規模で考えていくとSDGsにもつながるのですが、実生活の中や実社会において、

自分たちで問題意識をもつ、解決のためにいろいろな情報を集め、必要な情報を整理したり分析したりしながら、考えることで自分なりの価値を見出していきます。正解がないようなことに対して取り組む。そういった力を育てていくために、子どもたちが実際に体験的に活動をして気付いたり発見したりする中から、さまざまな課題を見付けるようにしますが、そのためのひとつの手段として身近な「川」を活かした学びが有効なのではないかというのが「川の学習」の発想です。

温度だったりにおいだったりを子どもたちが体全体で体験的に知ること、実際に川に入ってガサガサをsする体験に、本物との出会いから学べる効果があると考えました。

「川の学習」の対象に4年生を選んだのは、ちょうど社会科や理科といった「総合的な学習の時間」以外の教科で水に関する学習がある学年であり、教科をまたいで横断的に捉えて、例えば社会科で勉強した水のことを理科や総合的な学習に活かすなど教科を越えて学習していくことで、子どもたちが汎用性のある知識や技能をもって本当に深い学びとつなげていくことをねらったからです

ガサガサ体験の前にタモ網の使い方のレクチャー

純粋な「体験」から課題を設定する

「川の学習」では地域の湯殿川や浅川へ行ってガサガサ体験をしました。子どもたちの反応はかなり良いものでした。

川に足を運んで、びしょびしょになりながらも、目で見て、手で触って、

肌で感じて実際に「こういう場所にこういう生き物がいるんだな」ということがわかったようでした。

探究的な学習では、課題設定が非常に大事です。

実際に体験する前に、事前学習をし、体験を通して実際の気付きを増やし、そこから自分たちはどう

いうことをこれからやりたいかということが見えてきたことが、実際にガサガサに行ったことの価値でした。

昨年度はある程度子どもたちに情報を与えて取り組みましたが、今年はある意味で純粋に「体験」をさせました。

実際に川に行ってみたときに、子どもたちが気が付いたことを書き出して、どのような気付きがあったのかをまとめていきました。見付けてきたものを絞ってそこから課題を探し、それぞれ調査し情報収集をしていきました。

川でとってきたものを持ち帰って、調べる。調べて間違ってもいい。むしろ、事前に生き物の名前などは教えないようにしました。

実は学校予算の関係で去年は水槽がなく、持ち帰りができなかったのですが、今年は助成金で水槽

を購入したので、あとの調べ学習につなげることができました。

助成金ではテントを購入して熱中症対策もしました。

今年の「川の学習」は、八王子が全国でいちばん気温が高い日に実施された。

自分たちの川を守るには自分たちが行動する

 

子どもたちが個々に感じ取る課題はそれぞれで多岐にわたります。あるクラスで体験の振り返りをしてみると、大きくは「川の生き物に興味をもった子たち」と「川の環境に興味をもった子たち」にわかれました。生き物に興味をもった子たちに「この生物がここいるのはどうして」と尋ねると「川が

きれいだから」と答えます。「じゃあ、なんで川がきれいなんだろうね」と聞くと、「誰かがきれいにしているんじゃないの」。「そう。誰か川をきれいにしてくれる人がいるだろうし、私たちも

川をきれいなままにしていかないとだめだよね」というやりとりになります。

「みんなで川の環境を守っていかないとだめだよね」という意見になりました。一方、ガサガサをした時点で最初から川のごみに気付いた子がいました。パンの空き袋からキックスケーターまでが捨てられていて、川がきれいじゃないと言います。結局、みんなが向いている方向は「川の環境をなんとかしたい」「川の環境をよいままにしたい」ということなので、それをテーマにまとめをしました。「川

にごみを捨てないで」ということを他の人たちにも伝えよう、学校の人たち

になら自分たちでも声掛けできる、ということから子どもたちはポスターを作りました。「私たちのポスターを貼らせてください」と校長先生に許可を取って、地域に向けたお知らせも貼れる七国小の掲示板に貼りました。自分たちの川の環境を守っていくには自分たちが行動するしかないという思いになったようです。

集団での学習が新たな考え方や見方を広げる

 

子どもたちに湯殿川などでのガサガサ体験がSDGsのどの目標と関係があるかという問いを立てました。小学校4年生にSDGsのような世界規模の今日的な課題が理解できるのかということですが、教員がいきなり「SDGsというのはこうだよ」と進めたところで、きっとぼんやりとしたものになって、生きて働く本当の理解にはつながらないでしょう。子どもたちが課題をクリアしていく中で、自分の生活や身のまわりのものと実社会とのつながりがだんだん意識されていくものだと思っています。まずは身近な課題を自分たちで見付けて、それを解決するためにはどうしていけばいいかを

考える。そして、集団で学習を進めているので、自分の考えだけではなくて

友だちの考えも取り入れる。そこから新たな考え方や見方がだんだん広がっていく。個人差はあると思いますが、それがいずれ主体的なSDGsの考え方につながっていくと思います。体験的な活動を踏まえ、主体的で対話的な深い学びの実現に向け、昨年度は、七国小の『学びのフェスタ』という催しで発表の場を持ちました。1年生から6年生まで、特別支援学級も含めた七国小全体で、学年の枠を超えて交流する学びの場です。さらに、12月7日から9日まで東京ビッグサイトで

開催された大規模環境展示会『エコプロ2022』にも、子どもたちがまとめた普段の学習の成果をそのまま持って行き展示参加しました。

子どもたちの意見を直接、市に提案する

今年度、八王子市が『八王子未来デザイン2040』をスタートさせました。

2040年に向けたまちづくり計画で、八王子市の最上位計画です。2040年ですから、主役はまさに子どもたちになります。これを受け、今年度、七国小の子

どもたちに考えさせているのは、20年後に自分たちがこの地域で大人になったときに、このまちをどういうふうにしたいかということです。そういう課題を全学年に与えています。おそらく今の子どもが川で遊んだり学習したりする機会は少ないでしょう。でも、七国小の子どもたちは「川の学習」をしているからこそ、大人になったときに自分たちの子どもを川に連れて行って遊ばせたいと思うでしょう。実際に川に足を運んで魚を獲ったりして、川のにおいとか、ごみの問題とか、いいと

ころも悪いところもつかんでいる。大人になったら自分の子どもにも川で遊ばせたり魚を獲ったりさせたい、それができる七国の地域にしていきたいと思ったとき、何をしていったらいいのか。

川をどうしていきたいのか。そういう課題をもっていくでしょう。そのことで、まちづくりに主体性をもつと思うのです。

体験から感じた川のよさや課題を子どもたちが見出し、それに対して課題設定をする。川の生き物についてとか環境についてとか、子どもによって課題の設定の仕方はいろいろ変わってくるでしょう。テーマを考えて、夏休み期間に調べ学習をします。休み明けに整理と分析を行います。2学期中には市の担当課にガイダンスに来てもらうことも計画しています。そして最後に市にフィードバックします。自分たちの2040年の姿として、八王子市の川のこういうよさは残してほしい、そのために自分たちはこういう努力をする、私たちではできないこういうところは市に協力してもらいたい。そういうことを提案していく。八王子市も、これからつくっていくところ、大事にしていくところについての子どもたちの意見を求めています。

市の各所管課が興味をもってくれて、提案の時はぜひいろいろな課に声をかけてくださいと言われています。

市とタイアップして、モデルケースづくりにも挑戦しているところです。結局未来を生き、つくっていくのは子どもたちです。探究的な学び、学習を通して課題を見付けて解決して終わりではなく、子どもたちがそれを実際に市や大人たちに提案し、大人たちとともに解決していく。こうした過程で、子どもたちは、自分たちの意見や考えが、実際に市政や地域を動かすことができるのだという意識をもつことができます。

それは子どもたちの次の主体的な学びの原動力にもなるのではないでしょうか。

子どもたちが川での体験の振り返りをするときの、私たち教員の役割、工夫は、まずしっかりと道筋を立て、方向性を交通整理して、それぞれの課題を明確にしてあげることです。明らかに全く違う方向へ行きかけてしまう子もいるので軌道修正をする。何もかも一斉授業で教え込んで同じ方向を向かせるのではなく、教員はファシリテーターというような役割になります。

「ポスター貼らせてくれますか」という子どもたちに単に「いいよ」と許可するので

はなく、「どうして」「どういうねらいがあるの」といったやりとりの中で、子どもたちの考えをしっかりとより明確にしていってあげることも大切です。子どもの成長には時に大人が壁になることも必要です。そこであきらめてしまわずに、粘り強く取り組む力をもつ子どもにしたいと思うからです。

今年の七国小の大きなテーマのひとつが「トライ&エラー」なのですが、教職員含め、まず挑戦をして、そこでうまくいかなかったとしても、調整を繰り返し、新たな挑戦につなげる。このように、

SDGs の学習を通して、子どもたちが社会でよりよく「生き抜く力」を身に付けるための機会や方法を考えるのも教員の役割だと思います。

プロフィール

八王子市立七国小学校(東京都)

〈前列 右から〉
校長 長田猛さん
4年4組担任 吹春朋哉さん
〈後列 右から〉
副校長 野田勝彦さん
4年2組担任 原川真鈴さん
4年5組担任 長嶺香代子さん
図工専科
(研究主任) 望月慶さん

児童数894 名(29 学級)の八王子市最大規模
の学校。七国の豊かな自然と温かな地域を十分
に生かし、家庭、地域社会と連携・協働しなが
ら「八王子市未来デザイン2040」の実現に向け、
子どもたちの「未来づくりに挑戦」している。


ページトップへ